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学問と芸術のパトロン/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2015年7月26日 9時40分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 建築家や工務店が勝手な家を作っていたら、依頼者たる施主が文句を言うのは当然。国立大学の文系潰しや国歌国旗強要、巨大建造物の計画中止、公立美術館からの作品撤去など、みな同じ問題。戦後ずっと、学問の自由、芸術の自由、という美名の下、国民の税金を好き勝手に使って、ワガママ放題にやってこれた方が不思議。


 学問や芸術の振興は、天上の神仏への喜捨ではない。あくまで現世の事業だ。カネを出す以上、口も出す。それが出資の絶対条件。カネは出せ、口は出すな、学問と芸術の自由だ、などという、無茶がまかり通ったのは、戦前のあまりの悪行に対する世間の反動で政府が萎縮させられていたから。しかし、政府にはさらに税金を払うスポンサーの国民がいる。いくら学者だ、芸術家だ、と言われても、国民が反発すれば、政府の方も、いつまでもその好き勝手を容認しているわけにはいかない。


 ふつう、大人の社会常識として、朝礼などで、あえて社歌に口をつぐみ、社旗をないがしろにする社員は放逐される。もちろんちょっとやそっと勤務態度が悪いくらいで会社側が簡単に解雇にできるわけではないが、会社の業務や信用にまで著しい影響を及ぼすのであれば、社内不倫などと同様、私的な自由では済まない。ただし、歌や旗の拒否は、たしかに解雇禁止事項(労働基準法第3条)の「信条を理由とする」に抵触する虞があり、それを直接の解雇理由にしたら裁判はかなり面倒。しかし、だからと言って、それで図に乗っていると、会社は別の致命的なアラを探して合法的にやる、というのが大人の世界。


 もちろん、学者や芸術家も、憲法によって個人として尊重され、思想と良心、信教の自由を認められるべき国民。だが、その他の国民一般と同様、国立や公立の組織の方針や運営まで勝手に決めたり変えたりできるほどの高次権限は与えられていない。せいぜい、就職を強要されない自由(むりやり公務員として強制労働させられない自由、国立大学の教員にならない自由、公立美術館で展覧会を開かない自由)。あえてみずから進んで自由意志として国立大学や公立美術館の職務契約のパッケージ(これをこれまで信義則に頼って労使双方とも曖昧な口約束で済ましてきたのが、大きな問題の元凶)を受けておきながら、後になってその職務の一部を一方的に拒否改変するのは、どうみても契約違反だろう。それどころか逆に、思想を根拠に、御同類の特異な反体制的連中ばかりを優先採用、優遇抜擢してオルグしている気配がある、となると、政府も放置というわけにはいくまい。


 国と国民の象徴たる天皇がいっさい口を出さないのをいいことに、国と国民に仕えるはずの政府や与党ですら憲法を曲解するのだから、同様に憲法を利用して個人のワガママをゴリ押しする学者や芸術家が出てくるのも時代の流れか。端から見ていれば、どっちもどっち。この国にして、これらの小人あり、という印象。学者たちや芸術家たちが国民の代表であるかのように振る舞うのも、ずいぶんな思い上がりだと思うが、それを管理支配しようとする、たかだか一時の政権が、本来の主権者たる国民一般の声を正しく反映しているとも思えない。コソ泥たちと押込強盗のケンカのようなもの。


 いつかこうなるのがわかっていたから、先見の明のある人物たちは、湯水のように国民の税金を無限投入して暴れ回る国立大学、公立美術館の民業圧迫の下で、苦労を重ねて私学を興し、私財を投じて民間美術館を作ってきた。カネの問題を自分たちで解決しないかぎり、学問や芸術であろうと、金主の意向の従僕、政府の方針の奴隷。モーツァルトは、それが嫌で、パトロンの下から逐電し、郊外の免税館劇場で庶民に直接にチケットを売って『魔笛』を成功させた。学問の自由、芸術の自由は、独立自尊の気概気骨と財政基盤を抜きには成り立たない。税金にぶら下がる限り、政治の介入は防げない。


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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