PBRをいかに高めるか レゾナック、NECの好例から探る
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月14日 7時20分
なお、顧客価値起点でビジョンとエコシステムに織り込むべき要素を抽出するには、「4つのK」に着目することが有効である(図2、3)。
PBR1倍割れから脱したNECの「3つの打ち手」
このようなビジョンとエコシステムを生かした好例が、PBR1倍割れから脱し、直近では1.5倍台にまで改善したNECである。大きく3つの打ち手が象徴的だ。
第1に、成長ビジョンを再定義している。2023年第1四半期からこれまで顧客別に6つに分かれていた業績開示セグメントを見直し、ITサービス、社会インフラ、その他の3つに集約した。これにより、ITサービスと社会インフラを両輪とするビジネスモデルはあくまで維持する考えを示したうえで、今後は生体認証やセキュリティ、AIなどの技術を強みにITサービスの付加価値を向上させ、ITサービス専業の企業に逆転できる可能性も示唆している。
第2に、ビジョンの解像度も上げている。自社をゼロ番目のクライアントとして最先端のテクノロジーを実践する「クライアントゼロ」の考え方のもと、自社の課題解決に資する、顧客目線でも価値のあるサービスを磨き上げている。
第3に、新事業創出のためのエコシステムとして、「6つのイノベーションモデル」を構築している。これをリードした事業開発担当役員がその後CFOを担っている(前CFOであり現社長の森田隆之氏も現CFOの藤川修氏も、経理・財務部門出身ではなく、自らPLとBSに責任を持ち、M&Aなどでリスクテイクしてきた実業経験のある人物である)のは、当社が財務・IRと事業開発の強い連関を重視している表れだ。
PERを高めようとした際のもう1つの壁は、非財務だけでなく、財務でさえも曖昧(あいまい)な成長投資効果しか示せていないことである。ESGや知的資本のような非財務価値の見える化では、元エーザイCFOの柳良平氏が考案した「柳モデル」が有名であり、近年はKDDIや日清食品など、それを採用してIRに生かす企業も増えてきた。
しかしそもそも、財務面でも成長投資の事業貢献については解像度が低い。R&DやDX、M&A投資でどれだけの事業貢献を狙っているのかが外目からは見えにくいのだ。これが難しい一番の理由は、当然ながら、投資してからその効果が発現するまでには「時差」があるからである。加えて、「数字にコミットしたように見えて、実績が計画から逸れたときに説明しきれないから、投資効果の見通し、施策と成果目標のひも付けは対外的には見せたくない」という経営者の声はよく聞く。統合報告書でも、「財務情報」と「非財務情報」が両者の関連性なく並列で羅列されているだけ(「統合」されていない)、というケースも多い。
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