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「ニッセン売却」が象徴するセブン&アイEC構想の大失敗 カタログ通販に残された利用価値とは

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月12日 8時0分

●ECシフトを逆手に取ったベルーナ

 カタログ通販が衰退へと向かっていく中で、唯一、業績を伸ばしていたのがベルーナ(埼玉県上尾市)である。図表6はベルーナの売り上げ、営業利益の推移だが、これまで見てきたカタログ通販御三家とは、全く異なる軌跡をたどっていることが分かるだろう。2022年までは右肩上がりで利益も堅調に拡大傾向にあったが、最近少し伸び悩んでいる、といった状況であり、御三家と比べると極めて順調といっていい。

 ベルーナがここまで強いのは、ECシフトの影響が少ない高齢女性層(2010年代時点の60代以上、特に70代以上の女性層)に特化したシニアマーケティングを徹底したことにある、といわれている。この層は時代の推移とともにECにシフトしない人も多く、そうした層の発掘、リピート管理に優れていたことで、御三家と大きな差がついた。

 また、ベルーナは不動産事業の育成に加え、化粧品事業、看護師向け通販、呉服販売、EC通販企業などをM&Aで傘下に入れた。商品の多様化、事業の多角化を進め、収益を確保する部門の分散を着実に進めてきたことが大きく奏功しているのだ。

 そして今、クレバーなベルーナが予想して備えた通り、シニア特化のカタログ通販さえも世代交代が進行。減収傾向は顕著で、部門としては赤字になり、他部門がそれを支える状態となった。ベルーナでも近い将来、カタログ通販ビジネスは他部門に代替されるようになるだろう。

●ECという大海に埋もれないために

 EC大手である楽天の流通総額(取扱高)は6兆円、Amazonの日本国内での売り上げが3.7兆円という規模となっている。カタログ通販大手の数百億~1000億円といった売上規模は、数多く存在するEC企業の1社としての存在感しかなく、ECの世界での主役にはとてもなれない。こうした中で、特定層へのアプローチができるチャネルを持っている企業ならば、たとえ企業規模が小さくても、ネットの大海の中に埋没せず、顧客を維持することができるのではないだろうか。

 今回ニッセンを傘下に収める歯愛メディカル(石川県能美市)は、歯科医院向け通販を軸に、多忙な歯科医院関係者向けの通販という特殊なマーケットを掌握。今後はそれ以外の分野、つまり一般顧客向けのECの拡大を目指しているという。こうした企業にとっては、ニッセンのアクティブ顧客リスト(おそらく大半はECチャネル利用者)を買収金額の41億円で獲得できたことは十分価値がある。400億円の新規顧客購買リストを、10分の1の投資で買えたのなら安いものだ。

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