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AIで、旬の魚に合う「日本酒」造り 職人の勘を超える発見も

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月18日 6時45分

 そんなAIの精度を、鈴木氏は「これまで外れたことはない」と高く評価している。

●器による酒の味わいの違いをAIで測定 酒造りにつながった

 鈴木酒造店がAIによる酒造りを始めるきっかけとなったのは、福島第一原発敷地内に貯蔵されているALPS処理水の海洋放出だ。政府が海洋放出を決定したのは2021年4月。同時期、福島県の沿岸漁業は試験操業を終え、本格操業への移行期間に入るタイミングであり、地元の漁業に大きな影響を与えた。

 「漁師さんたちは本格操業を楽しみにしていた。だが、そのタイミングで海洋放出が決定し、不安が広がっていった。私たちの酒は地元の漁師さんたちとの暮らしから生まれてきたもの。福島の魚を応援したいと考え、AIを活用して地元の魚に合うお酒を開発できないか、と思った」

 鈴木酒造店がAIに触れるのは酒造りが初めてではない。浪江町の伝統的な焼き物『大堀相馬焼』の海外展開を狙って、酒器の形状によって変わる酒の味わいを、AIによって数値化しようとしていたことがある。

 人間の舌の構造上、どの部分にどのくらいの量が触れるかによって味わいは変わるという。例えばおちょこのようなラウンドタイプは味をまろやかにし、四角いスクエアタイプは味の変化が楽しめる。日頃から飲み比べをしている者なら共感できるかもしれないが、知らない人、特に日本酒に馴染(なじ)みのない海外の人たちは、理屈が分かって味の想像がしづらいかもしれない。海外に展開していくには、数値化されている方が説明しやすいと考えて研究を進めた。

 しかし、この取り組みは実現直前まで進んだが止まってしまった。その時に「またいつかAIを活用してみたい」と思っていたという。そして今、その思いの通り、AIを活用した酒造りが進んでいる。

●AI酒造りと地域復興 

 AIを活用して開発した日本酒は、オンラインや一部小売店で販売し、料理店にも卸している。また、魚の旬に合わせて販売しており、取材を実施した6月頃はホッキ貝やヒラメ、スズキに合う日本酒を取り扱っている。

 売り上げについては「あまり売れないだろうと思っていたが、想定していたよりかは売れた」と予想以上の反響があったことを明かしつつも、「とはいえ、まだまだなので頑張らないと」と意気込みを見せた。

 「福島県や浪江町を訪れた人に、地元の料理屋さんや居酒屋さんで味わってもらえたら」と地域復興への思いも込める。

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