最低賃金アップの波 「価格転嫁できない」中小企業はどうなる?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年8月28日 7時30分
●最低賃金アップの裏で苦しむ中小企業
一方、最低賃金の引き上げで最も深刻な影響を受けるのが中小企業だ。従業員の給与を最賃の近傍に設定している企業も少なくなく、最賃の引き上げで影響を受ける企業は21.6%に及ぶ。
中央最低賃金審議会の目安に関する協議でも、使用者側は大幅引き上げについてこう反対していた。
「今年度の最低賃金を一定程度引き上げることの必要性は十分理解しているものの、賃上げは二極化の対応が見られる。業績改善がない中で賃上げを実施する企業は6割になっていると指摘した。加えて、中小企業を圧迫するコストは増加する一方で、小規模な企業ほど価格転嫁ができず、賃上げ原資の確保が困難な状況にある。また、企業規模や地域による格差は拡大しており、最低賃金をはじめとするコスト増に耐えかねた、地方企業の廃業・倒産が増加する懸念があると述べた」(「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告」7月24日)
実はこうした懸念があるにもかかわらず、50円(5.0%)の引き上げは政権の意向も反映されている。岸田政権は今年6月の骨太の方針に「2030年代半ばまでの早い時期に全国加重平均1500円を目指す」と明記している。報道では労使の議論が平行線だった7月下旬に、官邸サイドから、引き上げ率を5%に乗せるように伝えたとされている。
しかし、中小企業が最賃の原資を捻出するのは容易ではない。すでにコスト削減など雑巾を絞るだけ絞っている現状では、商品やサービスの値上げによる価格転嫁が必要不可欠だ。
大企業や取引先への価格転嫁ができるかがカギを握るが、製造系の産業別労働組合の幹部は「春闘では経営自体が苦しく、大企業や取引先に製品の価格転嫁ができたところは一定の賃上げが出たが、価格転嫁ができなかったところは賃上げ回答が出なかったところもある」と話す。
政府や中小企業庁は、エネルギー価格や原材料価格の高騰を背景に価格転嫁や取り引きの適正化を呼びかけている。また、昨年11月末には公正取引委員会も労務費の価格転嫁の指針を出し、賃上げを後押ししている。
中小企業庁が6月21日に公表した「価格交渉促進月間(2024年3月)フォローアップ調査結果」(参考:PDF)によると、直近6カ月間のコスト上昇分のうち「10割」を価格転嫁できた企業は19.6%、「7~9割」の企業は15.3%、「4~6割」が8.9%、「1~3割」が23.4%だった。
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