なぜ「金の卵」を守れなかったのか 東芝と日立、明暗を分けた企業統治のあり方
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年10月29日 7時20分
川村会長自身が日立のグループ会社に出ていた際、外から親会社のことを見て、客観的に分析できた経験があったからこそ、社外の意見を聞く重要性を認識できたともいいます。そういった素地があったため、株主との対話を行うという道を選択することができたと考えられます。
日立はそうした考えのもと、事業の売却など適切な改革を行ってきました。一方で東芝は、経営陣がそうした判断ができず、それを第三者がモニタリングするという適切なガバナンスも効かせられていませんでした。
そのため、資本市場と向き合わず、不正会計を行い、その監査も不適切で、債務超過への対処法として「金の卵を売る」という安易な判断を下し、その手続きが難航するとアクティビストという都合の良い外部の力に頼ることしかできませんでした。
●「強い事業を残す」という選択ができていれば
半導体は当時日本で唯一世界の最先端を走っていた産業であり、それを担っていたのが東芝でした。それをみすみす手放すことになったのは、うそを重ねてきた東芝の経営やそのガバナンス体制が問題であったことは事実です。
しかし、東芝が「金の卵」である半導体事業を売却するという状況を目の当たりにしても、産業の保護や、資金援助ができなかった日本政府や金融機関にも反省すべき点があったのではと感じています。
もちろん、不正会計が問題視されていた東芝に対して、そうした資金援助の決断をするのは難しかったでしょう。しかし、日本経済全体のことを考え、政府や金融機関が行動を起こすことができていれば……と考えてしまいます。この時点で半導体事業を適切に国家戦略に組み込んでいれば、東芝という会社も変わっていた可能性があります。
また、東芝は原子力にも強みがありました。東日本大震災の原発事故により、原子力に対する風当たりは非常に強くなっていました。しかし、原発はいつか必ず「廃炉」しなければいけません。原発を「建設」できなくとも、「廃炉」にする際には、核廃棄物をどう処理するべきか考える必要があります。
結果論ではありますが、原発の「廃炉」という点に商機を見出し、原発関連の技術者の流出を食い止め、「グローバルでトップの廃炉技術を持っているのは日本の会社」という形に持って行けても、良かったのではないかと思ってしまいます。
きちんと株主と対話を行い、適切なガバナンスを行い、企業価値向上を目指すべしという東証からの働きかけもあり、日本企業におけるガバナンス体制も変わり始めています。
日本でありがちなのは、「現状維持」を重視してしまうこと。「今うまくいっているから良い」「今何とか持ちこたえれば良い」というその場しのぎの考え方ではなく、今後の10年をきちんと考え、ロードマップを作成していく必要があります。
金の卵を失うのを防ぐためにも、資本市場と向き合い、規律を持った経営で良いところを伸ばし、より強くなる為に事業再編をどんどん進めていくべきです。資本市場も労働市場も流動性が増し、日本全体の活性化につながっていくはずです。
政府としては、国家戦略をしっかりと示し、民間企業を活性化させ、セーフティーネットとしていざという時に頼れる存在であってほしいと考えています。
(草刈 貴弘、カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー)
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