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なぜ星野リゾートは「マルチタスク」に取り組むのか? 独自の働き方改革が生んだ意外な効果

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年12月30日 6時55分

 最初は、渓流を目当てに観光に来る人に苔さんぽを推奨しても、参加者はごくわずか。星野佳路代表すら、よく理解できなかったという。しかし、丹羽氏は、ルーペを通して見る苔のバラエティに富んだ形状の面白さ、苔から見た生態系の変容のダイナミズムを、自ら深く研究して説き続けた。その結果、苔さんぽは人気アクティビティに成長した。

 今では、奥入瀬渓流ホテルに「苔スイートルーム」という、本物の苔を使い、苔に包まれているかのような客室まである。館内パブリックエリアには、幅8.5メートルの「苔アートウォール」を設置。苔玉そっくりな外見の「苔玉アイス」も、ラウンジで販売している。

 苔観光は顧客の期待を超える、奥入瀬渓流ホテルのメインコンテンツとして、スポットライトを浴びるまでに成長した。

●意思決定の主体は各施設なので「本社」がない

 このようなフラットな組織の働き方と表裏一体のものとして、星野リゾートには「本社」という概念がない。

 星野リゾートは、長野県の軽井沢町が創業の地であり、本拠地でもある。その意味での本社は存在する。また、運営する施設が増えるに従って、東京にも拠点を設ける必要性が高まり、銀座にオフィスを構えている。そこでは、各施設で行うよりも、一拠点でまとめて行った方が効率的な情報システム、財務管理、一部の採用活動などの業務を行っている。

 各施設の総支配人を中心とするサービスチームは、自らの施設の収益性、顧客満足度向上に責任を負っている。

 「本社」という言葉から連想するのは、意思決定の主体がそこにあり、そこで決められたことを、各施設が履行する組織体制だ。

 ところが、星野リゾートでは、意思決定の主体が各施設にあって、サービスチームが主体性を持って自律的に運営に携わっているのだ。その意味で「本社」が存在していない。

●大学1年生に内定を出すのは「青田買い」か?

 星野リゾートの働き方改革で、直近で話題になったのは、2024年10月に始まった、学年を問わず選考に参加できる、大学の1年生からでも内定を出す取り組みだ。「青田買いではないのか」といった批判も一部にあった。

 しかし、真の目的は、1年生から採用の内定を出すことではなく、学生がどのタイミングで進路を決めるのか、主体的に選択できる自由を提供しているという。

 最近は就職活動を始める時期がどんどん早まり、大学2年の夏から動き始める人も増えている。それなら1年生からでも、ニーズはあるはずだ。いつでも、学生が就職したいとの考えが固まった時点で、星野リゾートとしては会う準備がある。

 新たな採用方式に対して、想定した以上の反響があったが、既にユニクロのファーストリテイリングなどでは始まっているので、今後一般化していくのかもしれない。

 鈴木氏自身も、星野リゾートに入社して、沖縄県西表島の「西表島ホテル」、福島県磐梯町の「磐梯山温泉ホテル」など、これまで訪れたことがなかった場所の宿泊施設で働いた。その土地の特徴的な植生、食文化などを勉強し、顧客に感動をいかに伝えるか、勉強の日々だったという。

 星野リゾートが目指す働き方改革は、必要な人員を必要な場所にという、トヨタ式のかんばん方式、ジャストインタイムの考えに近い側面がある。それに加えて、各施設のサービスチームに所属する個々人が、ルーティーンワークを超えて、全体的視野から新しいサービスを生み出す、モチベーションを高める場となっていることに独自性がある。

(長浜淳之介)

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