地下鉄サリン事件を忘れない あの日、現場で見たもの
Japan In-depth / 2015年3月19日 11時0分
1995年3月20日、私は午前7時半ごろ、東京メトロ日比谷線神谷町駅近くで他社の記者達とある取材の為に待機していた。その前の年に破たんした東京協和信用組合と安全信用組合の受け皿銀行、東京共同銀行(のちの整理回収機構)が営業を開始する日だったのだ。その数10数名もいただろうか、記者だけでなくスチルカメラやムービー(テレビカメラ)もいたが、私が在籍していたフジテレビのカメラマンはまだ到着していなかった。
その時、一人のスチルカメラマンが私たちの方に駆け寄ってきて叫んだ。「たくさん人が駅で倒れている。大変なことになってるぞ。煙が出たとかいう話もある。」
みな顔を見合わせた。「トンネル火災か?」ふとそんな思いが脳裏をよぎる。しかし、自分たちはまもなく営業開始する新銀行の取材に来ている。この現場を離れるわけにはいかない・・・。動こうとしない私たちに向かってそのカメラマンは畳みかけるようにこう言った。「とにかく!早く行ったほうがいい!」そういうや否や彼はまた駅の方へ駆け出すではないか。ただならない雰囲気に気圧されるように、私たちは一斉に脱兎のごとく彼の背中を追った。神谷町の交差点まで100メートルくらいだったろうか、駅の地上出口に辿り着いた私は目を見張るしかなかった。
そこには10数人の人が横たわったり、へたり込んでいる。ただならぬ雰囲気はすぐわかった。みな口をハンカチで抑え、ぐったりしている。すすり泣くような声やうめき声も聞こえてくる。中には悶絶しながら白目を剥き、口元から泡を吐き、意識がほとんど無い外国人もいた。これほどまで苦しんでいる人をかつて見たことなかった私は動転した。
フジテレビのカメラマンはまだ到着していない。午前8時半あたりに発注していたからだ。そうこうしている間に他社はどんどん取材を進めている。焦る。警察が規制線を張り始めた。メディアは追い出された。その時私は警察官だったか消防官に叫んだ。「あの外国人の通訳が出来ます!」「よし、中に入って!」
ようやくカメラマンも到着した。同期だった。苦しむ外国人に声をかけた。「何を吸い込んだんですか?色は?透明でしたか?」矢継ぎ早に英語で質問したが、彼は話すことすらできない。「このまま亡くなってしまうのではないか・・・?」背筋が寒くなる。サリンは新聞紙に包まれ、オウムの実行犯は傘で包みを刺して中のサリンを車内で拡散させた。その包みを見た、という女性も現れた。その人は包みのすぐそばにいて「何だろう、と思った」とインタビューに答えた。
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