【教えは受け継がれてゆくものだから】~「野球は人生そのもの」江藤省三物語 4~
Japan In-depth / 2015年7月18日 11時1分
「結局は基本の積み重ねが大事だ。繰り返し継続していくしかない。日々積み重ねなければいけないのに、指導者が変わるとメニューが変わってしまう。教える人間が違う日には違う練習をしているのでは、駄目だ。今日の試合だって、普通にそんな積み重ねの練習をしっかりしていたら、7点の内、5点は献上しなくて済んだはずだ」試合後、指導者は練習の日々、試合を冷静に振り返った。
試合後、球場の外に荷物を運び出し、球場脇で腰を下ろしたまま顔を上げずに泣き続ける選手、茫然としてまだ現実を受け止めきれていない者、無念の敗者のシーンが展開した。江藤は歩み寄り次々と、選手たちに声をかけた。
試合の3日前まではパスボールを連発していた3年生捕手のには、パスボールゼロを褒めた。2日間の練習で、見事な変貌を遂げていた。3年生遊撃手のには、ショートゴロが本当に多かったのを見事にどれもさばいたので「あれだけの打球を、よくていねいに処理した」と讃えた。
少し離れた場所で、応援に駆け付けてくれた仲間たちやOB、保護者が見守る。良くある風景だが、何回も目にしても、胸が締め付けられる。少し落ち着いたところで、円陣が組まれ、監督、部長、江藤、主将から話があった。
「前半3回までは相手の監督も驚くほど互角の戦いだったじゃないか。勝敗は仕方ない、試合に勝って喜び、負けて泣くのが野球。泣くのが嫌なら練習して勝てばいい」 江藤から、現チームへの最後の言葉だった。
溢れる涙を隠すためか、帽子で顔を覆っている選手の姿もあった。円陣を組んでいる間、ずっと腰に手をやっていた背番号1の姿が、少しかすんで見えた。終了後、応援してくれた全ての人間の前で整列し、主将が代表して挨拶。大きな拍手が沸き起こった。「お疲れさん!」どこからともなく、声が飛んだ。
教えは受け継がれていくものだから
江藤が現在、野球を教えているのは高校生だけではない。少年野球、中学生、クラブチームなど幅広い。8月8,9,10日は「江藤省三野球教室」を千葉県で開催する。中学生が対象で、軟式からスムーズに硬式野球に移行して、高校でも野球が続けられるように指導する。近県・都から100人、集まって来る。指導には元中日の谷沢健一、元巨人の城之内邦雄、慶應義塾野球部のOBらも参加する。
「野球には真剣勝負、緊張感、集中力、成功の喜び、失敗の痛み、他人への思いやりなど、人間として大切にしなければならない要素が沢山、含まれている。その事は、学校の授業ではなかなか教えてくれない。指導者は"健全な肉体には、健全な精神が宿る"をモットーに、野球を通じて子供たちに心と体の健全な育成をしていかなければならない」江藤は、いつもこのように考え、青少年・学生の指導に当たっている。そして、その教え、思いは受け継がれていっている。
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