[山内昌之]【イランのウィーン最終合意は「歴史的第一歩」か】~数年後、秘密核開発が露見する可能性大~
Japan In-depth / 2015年8月4日 7時0分
7月15日にウィーンでいわゆるP5(国連安保理常任理事国)+1(ドイツ)、またはEU3+3と、イランとの間にウラン濃縮の中止に関わる最終合意が成立した。正しくは、包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action JCPOA)と呼ばれるものだ。
イランの核開発計画の減速(遠心分離機の3分の2の縮減、保有濃縮ウランの98%削減、核の高度研究の10-15年間制限)によって、イランの核兵器生産の可能性を現在の2か月から1年に引き延ばしたことになる。この代償として、イランの約束履行がスムーズに進めば、年内にもおよそ1500億ドル以上の海外資産の凍結が解除されるはずである。
しかし、最終合意の意味については、真っ向から異なる評価が出ている。
まず肯定的評価である。
JCPOAはイランの核問題に関する唯一の現実的な外交解決として評価する声がある。これまでの米国の封じ込め政策は成功せず、むしろ逆効果だったというのだ。イスラエルやサウジアラビアのようなウラン濃縮の中止(ゼロ濃縮)や核関連施設の全面閉鎖は、決して現実的なオプションではなかった。しかも、軍事的オプションは、イランの核兵器所有を2.3年遅らせるだけにすぎず、イスラエルや米国で巷間言われるほどの実効性に乏しい。
制裁解除でイランの石油輸出は半年で倍増し、今後5年間の経済成長は年平均8%になるとハメネイ最高指導者は見ている。イランのGDPは10年間にサウジやトルコを抜くと考える者さえ現れている。これによって、体制の開放と市民の親米欧感情の増進が促進されるかもしれない。しかし、イランの市民たちは核保有反対ではない。JCPOAで6000基の遠心分離器の保有が認められ、地下の核兵器開発工場が「研究所」として維持が認められたのは、イランが1年で広島型原爆の開発することを事実上黙認されたという解釈も成り立ちうる。
次は否定的評価である。
JCPOAは米国やEUとの関係を正常化するにせよ、イスラエルやGCC諸国とくにサウジアラビアとの関係はますます厄介となる。インド、パキスタン、イスラエルのような保有国とは次元も違うが、ともかくイランが「核敷居国」(nuclear threshold states)となる特殊な地位は事実上認められたのである。しかし、イランの人権問題やアラブ世界への干渉政策はそのままに放置されている。ハメネイは、JCPOAがイランの全体政策を変えるものでなく、核問題だけに限定されると明言している。「多様なグローバルまたは地域的な問題については米国と交渉せず」「二国間関係については交渉しない」というのがハメネイの立場に他ならない。
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