[神津伸子]【その先へ!】~「野球は人生そのもの」江藤省三物語 10(最終回)~
Japan In-depth / 2015年8月4日 18時0分
野球の指導の道も、まだまだ半ば。一生、指導は続けていくつもりだ。子供たちの可能性は永遠、それを伸ばしてやるのが、私たち指導者だと。
江藤省三は、慶應義塾大学野球部の監督を任期満了で辞してからも、ずっと野球の指導を続けている。高校球児以外にも、この夏も、8月8,9,10日に「江藤省三野球教室」(主催・千葉日報社など)を、開催する。100人の中学生を対象に、スムーズに軟式から硬式野球に移行させるためだ。怪我も防ぐために、正しい練習の仕方を教える。
子供の指導を続けていて、「昔と大きく変わって来たことが、沢山ある」と、話す。江藤が子供の頃は、公園でキャッチボールや素振りは当たり前。男の子がいる家には、必ずグローブとボールがあった。今は、違う。自由に遊ぶ場所が少なくなり、テレビゲームやポータブルゲームなど、個々で遊ぶことが中心となり、友だち同士での触れ合いがなくなってきている。受験勉強のための塾や習い事のために、放課後の時間を費やすことが増えてしまって来ている―などと、観察して、受け止めている。
その結果が、学生野球にも反映され、今どきの学生気質を、江藤は以下のように分析する。「現在の高校生・大学生たちは“指示待ち族”が多い」と、指摘する。「競争心が少ない。全て平等。他人を蹴落としてまで、レギュラーを獲る気迫に欠ける。連帯責任の意識が薄い、自分以外の事に関心が薄い」。だが、一方で「“長所”としては、頭の回転が早い、頭が良い、思考力に優れている。こちらから頼まれたことは、100%理解して、行動する」という。
このように今どきの子供たちを少し客観的に見守りながら、指導を続けて来た。とはいえ、様々な選手との出会いと別れが、繰り返されて来ていて、どの教え子も、本当に可愛い。「選手たちにとっては、おじいちゃんのようなものですから」と、笑う。そんな中、こんなエピソードもあった。
少し前の慶應義塾大学野球部新入部員の話だ。
神奈川県日吉の大学キャンパスとは、駅を境にして反対側に野球部の練習グラウンドがある。そこに隣接した第一合宿所での出来事だった。この合宿所には、ベンチ入り候補のAチームの選手28人だけが、寝泊り出来る。その監督室で、一人の新人を面接のために待っていた。
その選手は、白い練習用のユニフォーム姿で現れた。身長は157~8㎝くらいだろうか。真っ黒な肌で、キラッキラの大きな瞳が、真っ直ぐに江藤を見据えて、印象的だった。"彼女"の名前は、川崎彩乃といい、駒沢女子学園高校でピッチャーとして活躍していた。「どうしても、慶應で野球がやりたくて、頑張って勉強して、合格しました」(川崎)。
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