[清谷信一]【陸自の輸送防護車、高額な調達価格】~海外邦人救助に大きな懸念 その2~
Japan In-depth / 2015年12月26日 7時0分
耐地雷装甲車にしても地雷やIED(Improvised Explosive Device:即席爆発装置)の被害を受ければ無傷では済まない。耐地雷装甲車はあくまで地雷の被害をゼロにするものではなく、損害を軽減するものだ。例えば乗員が全員死亡するところ、死亡が1名、重傷者が3名程度に減らせるというものだ。
であるから、負傷者を手当する救急車が必要だ。これも当然耐地雷構造を持った野戦装甲救急車である必要がある。ところが自衛隊にはただの野戦装甲救急車が1輌すらない。パキスタンや中国といった途上国が有している装備がない。だから邦人救出でも耐地雷野戦装甲救急車が必要だという発想がないのだろう。
触雷すれば当然タイヤや駆動系が破損する。その場合、横転する場合も多々あり、修理するにしても乗員を救助するにしてもクレーンを有した回収車が必要である。戦車にしても導入の際には回収車がセットで導入されるが、そのような原則を陸自は守っていない。
更に現場で破損した車輌を修理するにスペアパーツと、ワークショップを搭載した工作車輌が必要だ(回収車を兼ねている場合もある)。これらがなければ、破損車輌は遺棄するしかない。
これらを揃えなければまともな作戦は実行できない。APC(Armored Personnel Carrier:装甲兵員輸送車)型だけで作戦を行うというは机上の空論だ。実際にブッシュマターにはAPC型以外にも野戦救急車や、回収車、荷台を有した輸送型などが存在する。何故来年度予算でこれらを要求しなかったのか。
耐地雷装甲車の場合、乗員は体を4点式のハーネスなどでシートにしっかり固定する必要がある。更に安全性を高めるためにシート自体、触雷に際しての衝撃を最小限化するために、床から浮かしているフローティングシートが採用されている場合も多い。そうでないと触雷の衝撃で体が投げ出されて大怪我をしたり、衝撃で死亡・負傷したりすることがあるからだ。
当然ながらブッシュマスターはあくまで完全武装の歩兵が搭乗する前提の設計であり、赤ん坊や幼児、病人、あるいは妊婦には適さない。彼らをどうやって輸送するのだろうか。シートにきちんと座れない子供や病人を載せたまま触雷すれば被害は甚大となる。その面でも救急車型の導入は不可欠だ。陸幕はこれら弱者の輸送を考えていないのではないか。
耐地雷装甲車でも触雷しないことに越したことはない。このためコンボイの先頭にロードクリアランス車輌を先導させるべきだ。既に米国を始めNATO諸国ではこの種の装備をしている。通常は兵站輸送などのルートを定期的に走行し、地雷やIEDを処理するのだ。その処理にはこれまたクレーン・アームを有した工兵車輌が必要だ。これらは地雷や爆弾を処理するためのUGV( Unmanned Ground Vehicel : 無人地上車輌)を搭載していることが多いが、自衛隊ではこれまた導入が進んでいない。
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