報道に対する「合法的統制強化」
Japan In-depth / 2016年3月3日 19時0分
加えてそもそも日本の報道について、報道の自由を擁護する制度設計が弱いという指摘が諸外国のジャーナリストや研究者から繰り返しなされている。というのも、日本では総務省が放送事業者に対する許認可を行うが、放送事業者の中核事業の存続の可否に対して行政が強い影響力をもつことを意味するからである。
FCCなど政治から一定程度独立した第3者機関を設置し、報道と政治の独立を確保することで政治の報道への影響を排除しようとする制度設計と比較すると、やはり日本の現状では、報道は行政や政治の影響を受け易いものといえよう。
過去には、テレビ朝日の局長が政治的にコミットした発言をしたことがきっかけになって、テレビ朝日の放送免許の取り消しが議論されたこともあった。小泉内閣において、現在の安倍首相とNHKが番組制作過程をめぐって、軋轢が生じたこともあった。
したがって、確かに高市大臣がいうように、過去に電波停止が行われたことこそないものの、制度設計や、過去のメディアと政治の摩擦などを踏まえると、受け手である放送事業者や、その関係者からすれば十分に抑圧的に聞こえる理由はあるといえるだろう。言い換えると、外形的には法律違反とまでではいえない、その意味において合法的であったとしても、報道に対しての統制を強化する影響を招来しうる可能性について否定できる要素はまったくないといってよいだろう。
拙著『メディアと自民党』(角川新書)で詳しく論じたように、日本のメディアと政治の関係が、伝統的な「慣れ親しみ」の関係から、互いに影響力を行使しようとする「対立・コントロール」の関係に変化しようとしている。そのなかで、メディア、なかでも報道が政治に対して、従来とは異なった影響力を行使する余地というのは、まだ十分に残されているのではないか。
従来のメディア環境が変化したもとで、従来と同様の権力監視機能を果たそうと思えば、論理的にはその手法も変化しなければならない。制度の変更には時間がかかる。報道をめぐる制度設計は、より報道の自由を擁護するものに変更されるべきだが、当面は現状の制度のもとでということになるから、報道事業者における新たな可能性の探求について、いっそう期待したい。
もちろん、イギリスのサッチャー政権下で起きた、フォークランド紛争をめぐるBBCの批判的報道をきっかけとするメディアと政治の対立のように、必ずしもメディアが直近の勝利を得られるとは限らない。それでも、報道の自由、言論の自由は、成熟した民主主義国に共通する基本的価値である。市民自ら、その自由を手放す側に与する必要はない。ときの政治がメディアに対して、報道に対して、どのような態度をとったか、それを投票日まで意見表明しながら記憶し、投票行動に反映することが重要だ。
幸いにして、今夏には参院選も控えている。ただし、そのときに選択に値するオルタナティブがあれば、というかなり重たい留保の条件がついてしまうところが、現在の日本政治における選択の難しさではある。
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