HPVワクチンの効果、子宮頸がん以外にも
Japan In-depth / 2016年5月29日 12時0分
頭頸部がんの原因として、従来から知られているのは煙草と酒だ。かつて、勝新太郎、忌野清志郎、立川談志らが頭頸部がんで亡くなったが、まさに典型的だ。
ただ、我が国では禁煙・禁酒が進んでいる。それなのに、なぜ、頭頸部がんが減らないのだろう。それはHPVが原因と考えられる頭頸部がんが増加しているからだ。
このことに最初に気づいたのは米国のマサチューセッツ総合病院のジェームス・ロッコ医師らだ。英科学誌『ネーチャー』の取材に応え、「90年代から様相が変わった。喫煙や飲酒をしない健康な人が頭頸部癌で受診するようになった。特に扁桃周辺の咽頭が目立った」と説明している。
その後、ロッコ医師と交流のあるジョンズ・ホプキンス大学のモーラ・ギリソン医師(公衆衛生学)らが研究を進めた。2000年には、咽頭癌にHPVの感染を認めたことを報告した。さらに、2007年には、HPVと咽頭がんの関連を示す疫学研究の結果を、医学誌の最高峰であるニューイングランド医学誌で発表した。
その結果は衝撃的だった。咽頭がんが性感染症であることが示されたのだ。ギリソン医師たちによると、過去に26人以上と性交渉を持った人は、25人以下の人と比べ3.1倍、6人以上をオーラルセックスの経験がある人は、5人以下の人と比べ3.4倍、咽頭癌の発症リスクが高かった。
もっとも癌を起こしやすいとされているHPV-16型の感染を、口腔粘膜に認めた人は、感染していない人と比べ14.6倍、それ以外の型のHPVでも12.3倍もリスクが上がっていた。
この結果を受け、同年に、WHOの外郭団体である国際がん研究機関は「HPVが咽頭癌を起こす十分な証拠がある」と声明を出した。これ以降、HPVと咽頭がんの研究は世界中で急速に進んだ。その結果、HPVによる頭頸部がんは、煙草や喫煙で起こる従来型と比べ、若い人に多く、抗がん剤や放射線治療に比較的反応しやすいことが明らかとなった。
また、HPVには多くの型があるが、90%以上の咽頭がんはHPV-16によって引き起こされることも明らかとなった。これは、市販されるHPVワクチンがカバーしている。では、ワクチンは咽頭がんの予防に有効なのだろうか。結論から申し上げると、かなり有望だ。
2013年、国際がん研究機関のヘレーロ博士らが、子宮頸がんの予防のために実施されたコスタリカ・HPVワクチン研究の結果を再解析した結果を発表した。この研究によれば、口腔内のHPV感染は、ワクチン接種により93%も低下していた。ワクチンにより咽頭がんを予防できる可能性が高い。今後、頭頸部がんを対象としたHPVワクチンの臨床研究が加速すると考えられている。
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