防衛省行政事業レビューは信用できない その2
Japan In-depth / 2016年7月5日 0時0分
これは負傷時に素早く装着するためと、手足を温存するためには最低2本の止血帯が必要であるためである。さらに、止血帯の1個が破損、紛失した場合でも、もう一個が残ることを期待できる。例えば片手が吹き飛んだ状態で、ポーチのジッパーを開けて、中の止血帯を容易に探すことができるだろうか。止血帯を装着するのは通常1分以内とされているのだ。それ以上だと出血多量で死亡する可能性が高くなる。
また陸自のセットは止血帯としてCATを採用しているが、米軍やフランス軍、ヨルダン軍ではそれまで使用していたCATから「SOFTT-W: Special Operations Forces Tactical Tourniquet WIDE」に移行しつつある。これはCATが捻れることにより止血機能が失われる問題が解決されていないことが最近、致命的な欠陥として認識されてきたからだ。このため、米軍はIFAKII ではSOFTT-Wに移行しつつあり、CATを使用する場合には装着を確実にするための内容品を追加している。
因みにこの資料には記載されていないが、陸自では筆者の批判記事が出たあと、昨年度の補正予算でもう一本の止血帯と止血帯用ポーチの予算を要求している。なぜこのことを資料に反映させないのか。
なお、空自は止血帯としてSOFTT-Wを採用するようだ。CATは身体に優しい構造という利点があるものの、SOFTT-Wの方が、戦場では確実に作動する信頼性が高いためである。陸自衛生部でもSOFTT-WとCAT G7との比較実験をしたようだか、その結果CATを選択したのは、戦場での使用というセンスが欠如している、あるいは特定の業者との癒着でもあるのではないか。
はさみも同じように「同等品」ではない。はさみは傷口に刃先を突っ込むことで、外傷をさらに悪化させたことからIFAKⅡでは廃止され、引っ掛けて素早く切り裂くストラップカッターが採用されている。ストラップカッターは車両の側面ガラスを叩き割る機能も備える。皮肉なことにこれは米国企業が日本企業に製造させている製品だ。
陸自で採用している人口呼吸シートもこれまた経鼻エアウェイとは「同等品」ではない。これは感染予防のための防護具であり、気道確保の機能は全く無い。両者を比較することそのものが間違いである。
米軍や他の軍隊では最前線での疼痛管理が進歩し、将兵全員に痛み止め、止血剤、抗菌薬からなるパッケージも戦時には支給するが、陸自にはない。この事実も資料では説明されていない。
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