トランプとBrexitの共通点 ポピュリズムとは何なのか
Japan In-depth / 2016年11月6日 18時0分
渡辺敦子(研究者)
「渡辺敦子のGeopolitical」
今週に投票を控え、総括するのは尚早だろうが、ドナルド・トランプ氏への支持は結局最後までさして衰える気配がなく、もはや一過性の「現象」とは言えなくなってきた。 最近、米タイム誌で英国のマイケル・アシュクロフト卿がトランプ氏とBrexitの共通点について書いていた。彼によると、その共通点は三つだという。 その1 双方は有権者の政策問題を超えた「変化」への望みを利用している 。人々は、現状起きているグローバル化などの変化を不安な目で見つめ、異なる変化を望んでいる。 その2 彼らの望む変化は、より大きなリスクを生む恐れがある。 その3 政界、メディア界のエリートは、双方の有権者を読み間違えた。 卿いわく「EU離脱を望む者は、バカで無知で偏見的で頭がおかしい」という思い込みがあったが、実際Brexit組には多くの教育程度の高い、思慮深い人たちがいた。一方米大統領選では、「貧しい人々はバカである」という思い込みにより、メディアが、実際には所得水準の比較的高いトランプ支持者層をいかに見誤ったかが議論されている(10月13日付ガーディアン紙)。 本稿の興味は、とくに第3の点である。ここで考えるべきは、私たちの知覚における「ステレオタイプ」あるいは「分類」と、その背後であまり注目されない、感情、感覚、習慣といった小さなもの、その双方の役割だろう。2つの現象は確かに、常識では説明しにくい。私たちは通常、「アメリカ人は教養がない」「イギリス人は保守的だ」「女性はリベラルだ」「老人は偏屈だ」といった公式を判断材料に、人々を分類し物事を理解しようとする。 だが、トランプ陣営を取材したある日本人女性のルポは、白人男性の反トランプ派に「人種差別主義者!」と罵倒された経験を披露していたし、ヒスパニックの有権者は、「有色人種だから反トランプではない」と断言し、「女性カードを使うヒラリーは嫌い」という女性もいる。もちろん、ガチな白人鉄鋼労働者のヒラリー支持者だっているだろう。「隠れトランプ支持者」について論じる記事もあるが、支持者は隠れていたわけではなく、見落とされていただけだろう。実際、トランプは問題ごとに是々非々で判断する無党派層に支えられている。 人はAだからBである、とは限らない。多様化の時代、そんなことは当たり前である。ステレオタイプは、中東系アメリカ人やトランスジェンダーはもちろん、若作りに忙しいオヤジの心情さえ説明しない。それなのになぜ、私たちは「ポピュリスト=無知な大衆を扇動する者」という 、お決まりの思考回路から脱することができないのか。 言語学者で認知科学を研究するGeorge Lakoffによれば、我々の思考の98%は無意識下にあり、それは基本的なメカニズムに従って作動する。だから我々は思い込みから抜けられない、というわけだ。だが最新の「科学」に頼らなくても、半世紀前のハンナ・アーレントの分析で事足りる。イデオロギーとは、科学的な装いをもつ「説明の道具である」。人はいつも、「本当のこと」を、理解できない現象を説明してくれる何かを、求めている。そしてあるイズムに出会い、「そうか!」と合点がいったとき、その信者となる。 アーレントは同時に、イデオロギーが全体主義となるメカニズムにおける「孤独感(loneliness)」の役割を強調している。孤独感がネガティブに働くのは疎外感を伴うときで、疎外感には他者の存在は不可欠だ。つまり、人と交わるからこそ、孤独感はときに増す。人と簡単につながる方法が氾濫する現代、人が孤独感をより強く感じるパラドクスはそこにある。 ならば孤独感を減らすには、国(あるいは自分)を閉ざしたほうがいい。こうして誰もが持つ感情である孤独感は、ある社会を内向き志向にする。この逆説は、今年国際政治の耳目を集めた2つの「現象」と全く無縁ではなく、誰にも、つまりどこの社会にも潜在的にあるものなのだ。外部リンク
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