「できれば最後は花蓮で逝きたい」失われた故郷「台湾」を求める日本人達 湾生シリーズ3 清水一也さん
Japan In-depth / 2016年11月23日 18時0分
野嶋:皆さんは完全に「台湾の日本人」になっていたのですね。
清水:そうです。移民として、日本のわずかな財産を処分して、お墓も移して、台湾に根を張ろうとしました。祖父母の話では何回も日本に戻りたいと思った大変な時代があったそうです。最大の問題は台風などの風水害と風土病でした。私の祖母は父を生んだ後に風土病で亡くなり、乳飲み子を抱えての生活は苦難であり、その後に内地から妹を後妻として迎えた次第です。
祖父は農業移民で台湾に行ったのに、上陸した途端に移民指導所で書類の手違いにより開拓地が割り当てられず仕方ないので、最初に移民した人たちの仕事を手伝いながら、指導所にも勤務していたところ、郵便局員だった経験を買われて、吉野村郵便局長を任せられました。当初は郵便局では生活が出来ず、種苗と樹木栽培の兼業が許されました。日本で言えば造園業で、日本に戻ってからも造園業は続けています。祖父はその後農業組合組織を立ち上げ、村長も務めるという多忙な歳月の中で、官営移民吉野村の建設に従事しました。
野嶋:ご家族は皆さん台湾を懐かしがっていたのですか。
清水:両親も兄弟も戦後、台湾を何度も訪ねています。ただ、祖父は村民に対する申し訳なさをずっと引きずっていた。ですから、一度も台湾には戻りませんでした。そのかわり、祖父は同じ村の開拓民の人たちを回って激励や謝罪していました。というのも、開拓民の残留許可を昭和20年12月当時の台湾のトップであった国民政府から任命された陳儀長官に対して、祖父は台北まで頻繁に陳情を重ね「開拓民はそのまま台湾に残ってよろしい」とお墨付きをもらいました。ですから、花連の仲間たちにそう伝えたのです。ところが昭和21年2月に突然帰国命令が出て、一切の生産設備は没収され、バタバタと引き払わされました。一般人は引き揚げる準備期間があり、財産の処分や整理が出来ましたが、開拓民は祖父の話を信じて準備していなかった。だから、皆に申し訳なかったのだと思います。
でも、ほかの家族はとても台湾を懐かしがっていました。いちばん日本で思い出して語っていたのは、自分たちの生まれた育った吉野村の近くにある山や海で、先住民のお手伝いさんや働き手たちと一緒に狩りや海釣りを楽しんだことです。休みの日にはいつも一緒に出かけていたそうです。
野嶋:いま、清水さんが台湾に通っている理由は何でしょうか。
清水:60歳を過ぎたときに前立腺がんに罹りました。入院して手術し、無事にがんを摘出できましたが、父もすでに亡くなっていて、あとは残された人生で何をするのかと考えました。そこで、自分たち家族の台湾時代のことを記録しておかないときっと将来誰も分からなくなると思ったのです。それで、今から7、8年前から通うようになり、やがて、当時の戸籍などを本格的に調べるようになりました。
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