問われるメディアの良心 子宮頸がんワクチンデータ捏造疑惑報道
Japan In-depth / 2016年11月27日 7時0分
子宮頸がんワクチンは、有効性が証明され、世界的なコンセンサスが確立している。世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(CDC),欧州医薬品庁(EMA)などが有効性・安全性についての声明を出している。
研究も日進月歩で進んでいる。今年9月には米国オハイオ州の医師たちが13~26歳の性体験のある女性1180人を調べたところ、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)6, 11, 16, 18型の感染率が3.2%に低下していたと報告した。従来の34.9%から91%低下したことになる。これは子宮頸がんワクチンが普及し、7割以上の女性が接種しているためだ。子宮頸がんが、撲滅される日が来るかもしれない。
子宮頸がんワクチンは医療費抑制にも貢献しそうだ。米国では現在、21才から3年毎の子宮頸がん検診が推奨されているが、今年10月、ハーバード大学の研究者らは、HPVワクチンが普及すれば25歳、または30才から5年毎でいいという研究成果を発表した。
子宮頸がんワクチンに限らず、全てのワクチンに副作用はある。筆者は、運悪く副作用がでた被害者は訴訟に訴えずとも救済される「無過失補償制度」を整備する必要があると考えている。(拙文参照)ワクチンの議論をする際に大切なことは、効果と副作用のバランスをとることだ。被害者救済の議論も欠かせない。
こうなると、厚労省や専門家だけで決めることは出来ない。効果と副作用のバランスは、個人の価値観によって左右されるからだ。結局、ワクチンの導入の是非を決めるのは国民一人一人の判断ということになる。
そのためには、正確な情報が国民に伝わらねばならない。この点でマスコミの果たす役割が大きい。ところが、子宮頸がんワクチンに関して、マスコミは、その役割を果たせていない。いや、放棄してきた。私たちの研究室は、津田健司医師(帝京大学)らと共同で、大手新聞の子宮頸がんワクチン報道を検証し、その結果を米国の臨床感染症雑誌(CID)に発表した。この分野では世界最高峰の医学誌だ。この研究では、13年の朝日新聞などの報道をきっかけに、子宮頸がんワクチンに関するネガティブな情報が大半を占めるようになったことを示した。(参照)
私は、今回の朝日、毎日新聞の対応をみて、心底失望した。両者が報道の方向性を変えるなら、総括が必要になる。その際、責任問題が浮上するだろう。誰もとりたくない。その結果、読者よりも、保身を優先した紙面となる。
子宮頸がんワクチンは、朝日や毎日新聞がどう報じようが、海外と比べて、我が国で子宮頸がんの患者が多いことが問題となって、やがて世界的なコンセンサスに従うことになるだろう。この点について、そんなに心配はしていない。
問題は、新聞という明治以来、先人たちが築き上げてきた「社会の公器」を、臆病な新文人たちが壊してしまうことだ。こんな報道を続けていれば、やがて若者は新聞を読まなくなる。果たして、それでいいのだろうか。民主主義には健全な議論が欠かせない。そのために、新聞の存在は必須だ。いま、新聞人の良心が問われている。
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