英国にもあった共産党 しぶとい欧州の左翼 その4
Japan In-depth / 2017年2月5日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
2009年の秋に私はロンドンを訪れ、英国共産党の党首にインタビューした。カール・マルクスの評伝を書くための取材で、その成果は翌2010年に、『超入門資本論 マルクスという生き方』(新人物文庫・電子版も配信中)という本に結実している。
ただ、共産党の党首の話は割愛せざるを得なかった。よく知られるように、マルクスはロンドンで生涯を終えているのだが、その話題について日本の読者に有益と思われるような話が、あまり聞けなかったからである。
そもそも、日本の読者がマルクスにそれほど興味を示すかどうか、取材の段階でもまだ先行き不透明であった。ロンドン北部にあるハイゲート墓地にマルクスの墓があるのだが、その墓碑銘のひとつは、
“Workers of all lands unite.(万国の労働者よ、団結せよ!)”というものだ。『共産党宣言』の結びの言葉として、あまりにも有名……と言いたいところだったが、たしか2004年頃、有名私立大学の政治経済学部を卒業して、一流と目される出版社に就職した若い人が「マルクス・エンゲルス」というのは一人の人間だと思い込んでいた、という話を聞かされていたからである。
ハイゲート墓地を散策中、急にその話を思い出して、知り合いの、当時は大学生だったライター志望の女の子(ちなみに「マルクス・エンゲルス」の人と同じ学校。都内西北部にあると聞く)に、上記の墓碑銘の英文をメールで送り、訳してごらん、と書き添えた。
「労働者はみんな団結しよー、みたいな感じですかぁ?(絵文字その他省略)」やっぱり……今や大学生でも、この英文から先の訳には行き着かないのか。そのような世相であってみれば、英国で今も共産党が健在だと聞かされたならば、真顔で驚く人が多い。
本シリーズの第1回で述べたように、社会主義思想の源流をたどれば、18世紀末のフランス革命以前までさかのぼるのだが、1917年、ロシア社会主義革命が成功したことによって、大きな変化がもたらされた。それ以前、社会主義思想の持ち主たちは、おおむねどこの国でも、社会民主党の旗の下に結集していたのだが、ロシアにおいては、社会民主党内において、レーニンらが率いるボリシェビキ(多数派)が暴力革命に傾斜して行き、反対したメンシェビキ(少数派。本当はこちらの方が勢力が大きかった)と袂を分かって革命を成功に導いた。
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