少数民族問題でスー・チー氏窮地に
Japan In-depth / 2017年2月6日 23時0分
大塚智彦(Pan Asia News 記者)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・ミャンマーでイスラム教徒暗殺さる
・ロヒンギャ族虐殺、国際的人権問題に発展
・「国軍・仏教徒」か「少数民族・貧困層」か、スー・チー氏ジレンマ
■空港で起きた惨劇
1月29日午後4時半過ぎ、ミャンマーの中心都市ヤンゴンの国際空港到着ロビーを出たタクシーを待つ人々の間に突然、銃声が響いた。
インドネシアでの会議から帰国したばかりで出迎えた親族とあいさつし、孫を抱きあげたミャンマー人、コーニー氏(63)は銃弾を頭部に受け即死状態だった。現場から逃走を図る犯人を追った運転手も銃撃され、病院に搬送後死亡が確認された。犯人はその後別のタクシー運転手や駆けつけた警察官らによって逮捕され、暗殺事件として捜査が進められている。
コーニー氏はアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相の与党「国民民主連盟(NLD:National League for Democracy)」の法律顧問であり、弁護士でもあった。その存在は仏教徒が圧倒的多数を占めるミャンマーでコーニー氏が少数派のイスラム教徒であることでも特異の存在で、スー・チー顧問の信頼も非常に厚かった。
地元紙は犯行の動機についてコーニー氏が ①イスラム教徒だから ②現在進行中の憲法改正を停止させる狙い ③①と②の両方の目的による「政治社会的背景のある暗殺事件」との治安当局の見方を伝えている。
ミャンマーでは「国会議席の25%が軍人」「内務、国防など3大臣ポストは軍人」「軍人の過去の犯罪は赦免」などが盛り込まれている軍政時代の憲法を改正し、民主政権に相応しい憲法に改正する動きが進行中で、コーニー氏はスー・チー顧問の右腕として改正運動の中心にいた。さらにコーニー氏は急進的な仏教組織の圧力で成立した「仏教徒と非仏教徒の結婚を規制する法律」に反対する運動もイスラム教徒の立場ではなく、弁護士の立場から力を入れていた。
こうした背景から逮捕された暗殺実行犯の出身、チー・リン容疑者(53)は憲法改正に反発する軍関係者かあるいは少数民族であるイスラム教徒を排撃しようとする仏教関係者の使嗾(しそう)に基づいた犯行との見方が強まっている。
■イスラム教少数民族ロヒンギャ問題
今回のコーニー氏の暗殺はスー・チー顧問を苦しい立場に追い込んでいる。というのもミャンマー西部ラカイン州に集中する少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族の人権問題を巡ってミャンマー政府は国際社会、とりわけ加盟国でもある東南アジア諸国連合(ASEAN)から厳しい批判を浴びているからだ。
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