金正恩、指導者地位が安定
Japan In-depth / 2017年3月7日 18時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・金正恩は支配者利益を優先させた。
・体制・経済・安全保障環境・指導者地位の安定が背景。
・対北朝鮮交渉、期待薄。
■金正恩は支配者利益を優先させた
暗殺により北朝鮮は外交的不利益を被った。直接的にはマレーシアとの関係がほぼ喪失した。大使が「好ましくない人物」として受入を取り消された事態はほぼそれだ。また、間接的にも世界中での評判を損なった。
最大の不利益は米中の反発だ。まず米北対話は厳しくなった。米北は昨年10月、クアラルンプールにおいて「track 2」と呼ばれる非公式対話にまでこぎつけたが、事件による北朝鮮体制への反発により継続は厳しくなった。対外貿易の9割を占める中国からは2017年度末までの石炭輸入禁止といった経済制裁を受けている。これは北朝鮮輸出の4割を占めるものだ。
だが、北朝鮮はそのリスクを承知しながら暗殺を実施した。これは国益より支配者利益を優先したことを示している。金正恩にとっての潜在的政敵の抹殺つまり支配者利益の追求は、国家としての不利益を顧みずに実施された。中でも大使館職員が参加したことは注目すべきだ。外交セクターであっても北朝鮮の外交利益よりも、国内での忠誠心ゲームを優先しているのだ。
■金正恩が決断できたわけー体制の安定
それは国内体制が安定しているからだ。金正恩にとって国内状況は悪いものではない。国民経済は安定しており治安問題に発展するおそれはない。安全保障も核による抑止が期待できる段階に至っている。支配者としての地位の維持も、今回の暗殺により最大リスクである金正男の排除に成功した。
国内に困難を抱えないため、それを解決する外交努力は必要ないのだ。実際に今の北朝鮮はかつてのように米国との国交も、米韓との平和条約も望んでいない。だから外交関係を損なう形での支配者利益の追求が可能となった。そして当の外交セクターも忠誠心ゲームに没頭できたのだ。
これは、今後に対北交渉の進捗が見込めないことも意味する。北朝鮮は外交的孤立を問題視しない。強いて交渉に応じ妥協する必要はない。これは国際社会が問題視する核開発にしても、日本固有の問題である拉致にしても同じである。
・経済の安定
北朝鮮経済は安定している。少なくともその不振による体制動揺はない。政治・経済問題を改善するための外交的解決は必要とされない。
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