金正恩、指導者地位が安定
Japan In-depth / 2017年3月7日 18時0分
だが、イメージ戦略としては成功している。「本格的核戦力である」「どうやっても取り残す」といった印象をあたえるためだ。
つまり、軍事的に現体制は安泰である。米韓との交戦があっても小競り合いを超えるものはない。それにより体制が転覆する規模ではない。
・指導者地位の安定
そして金正恩の地位安定である。これも北朝鮮に中国との関係維持努力の必要を失わせ外交的努力を不要とさせるものだ。
これは金正男抹殺に成功した結果だ。それにより彼を利用したクーデター、特に中国による「首の挿げ替え」が不可能となった。
結果、支配者金正恩にとって最大の脅威が除去された。実際に金正男にその気はなく、中国もそこまで考えていないといわれていた。だが、彼の北朝鮮支配にとってほぼ唯一の問題である。それが解決したのだ。
同時にその国内支配力も確認された。工作機関ほかの忠誠心が明らかとなったからだ。各セクションは金正恩の個人的利益のための命令であっても従う。それが金正日の遺子殺害でも躊躇しないことが証明された。
つまり金正恩にとって暗殺の利益は大きいものであった。国家としての外交では深刻なマイナスとなったが、金正恩体制としては相当のプラスとなったためだ。
体制内クーデターの可能性を排除できた結果、金正恩は中国の機嫌を伺い、意向を汲む必要はなくなったのである。
■ 対北交渉には期待できない
支配体制の安定により北朝鮮は外交を必要としない。そのため自国の信用を毀損するリスクを冒し、マレーシアで大胆な行動がとれた。
これは同時に今後の対北交渉の不可能も意味する。仮に交渉しても何も期待できない。
外交成果を必要としない北朝鮮に、交渉は通用しない。経済・安全保障・指導者地位に困難を抱かない状況では、誠実に交渉する必要はなく、不利を忍んで妥協する必要もないためだ。当然ながら周辺国の圧力も通用しない。
このため核問題以下の交渉は停滞する。現状では米国も中国もさほど怖くはない。体制維持に必須の核兵器の整備を中断し、あるいは廃棄する交渉に乗る必要はまったくない。それ以外の問題、例えば日本と北朝鮮の間にある拉致は問題ともならない。「何かもらえるなら話だけは聞く」程度であり実際には何もしない、やらずぼったくりとなるだろう。
参考)文谷数重「北朝鮮の核ミサイル戦闘艦」『軍事研究』(2017.1)pp.197-209
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