マレーシアと北朝鮮 報復の連鎖
Japan In-depth / 2017年3月8日 0時0分
大塚智彦(Pan Asia News 記者)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・事件の全容解明、道半ば
・北朝鮮とマレーシア、対立エスカレート
・ASEAN地域フォーラム、北朝鮮非難へ
■事件捜査はまだ道半ば
北朝鮮の金正恩労働党委員長の異母兄にあたる金正男氏が2月13日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺された事件でマレーシア政府は7日、クアラルンプールの北朝鮮大使館を封鎖、大使館職員らの自由な外出を禁止した。一方の北朝鮮も同国内にいるマレーシア人の出国禁止を決めるなど両国による外交的な報復合戦がエスカレートしており、国交断絶に発展しそうな危機的状況となっている。
暗殺事件の捜査は金正男氏のDNA鑑定が現段階では進んでおらず、殺害に関与した容疑で逮捕・拘束した北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者を証拠不十分で釈放、強制退去せざるを得なかったことなどから暗殺実行犯とされるインドネシア国籍とベトナム国政の2女性を殺人罪で起訴するに留まっている。
2女性は裁判で有罪判決が出た場合は最高刑で死刑もあり得る状況となっているが、暗殺に使用されたという猛毒VXガスの入手経路を含めた犯行の全体像をえぐり出すには程遠い状況だ。
■北朝鮮大使追放契機にエスカレート
こうした中マレーシア政府は事件発生当時からマレーシアの捜査を「信用できない」「陰謀である」などと中傷誹謗してきた在マレーシア北朝鮮大使館のカン・チョル(康哲)大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(外交上好ましからざる人物)」として6日午後6時(現地時間)までのマレーシアからの退去を通告、事実上津法されて同大使は期限前に出国した。
マレーシア捜査当局は事件に関与した疑いが濃厚な重要参考人の北朝鮮国籍の人物3人が北朝鮮大使館内に潜伏している可能性があるとして、7日に大使館の封鎖に踏み切った。
ロイター通信などによるとマレーシアのヌル・ジャズラン・モハメド内務次官は「現在北朝鮮大使館内にいる全ての大使館職員を確認する。そして職員の人数と居場所について確認できるまで自由な出入りは認めない」との強い姿勢を示した。
北朝鮮大使館敷地内にはウィーン条約で認められた外交上の制約でマレーシア捜査当局関係者を含め誰一人として北朝鮮側の許可がない限り立ち入ることはできない。このため「我々が立ち入ることはない、彼らが出てくるのを外で待つだけだ」(マレーシア警察のカリド長官)という「封鎖作戦」に打って出た。
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