怯える金正恩の暴走に備えよ
Japan In-depth / 2017年3月11日 18時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・金正男氏の長男金漢率氏が40秒の動画公開
・金漢率氏の勇気が金正恩を脅かす
・日米共同して金正恩暴走に備えよ
■金正男の長男が父の死を認める動画発信
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(33)の指令により、マレーシアで猛毒の神経剤VXを使って暗殺されたとされる異母兄の金正男氏(享年45)の長男、金漢率(キム・ハンソル)氏(21)が、謎の脱北者支援組織「千里馬民間防衛」によって「保護」され、動画サイト『ユーチューブ』に投稿した動画で、冷静かつ計算されたメッセージを世界に向けて発信し、敵対者の幻覚に怯える金正恩を震え上がらせた。
なぜなら、たった40秒の動画で、金漢率氏が極めて優秀で、人民に愛され支持され得る、潜在的な生来の指導者であることが明らかになったからである。
金漢率氏は、自分の父親が金正恩の主張するように心臓発作で死んだのではなく、「殺された」と述べ、真正面から叔父の金正恩に挑戦した。まだ21歳の金漢率氏は、動画の締めくくりの部分で気丈な笑みさえ浮かべ、心中の悲しみと憤りを抑制しながら、父親に次いで暗殺される危険を顧みず、「我ここにあり」と自らの存在を大々的に世界中に示した。
政治的野心がなく、静謐(せいひつ)を保っていた金正男氏に嫉妬し、無慈悲な手法を使って殺害した、臆病で器の小さい金正恩に比べ、若い金漢率氏は堂々としていた。自ら「北朝鮮出身で(指導者の家系である)金一族の一員」と語り、北朝鮮への自分の帰属と忠誠と指導責任を明らかにした。
金漢率氏の短いメッセージは、彼が聡明で国際的感覚に優れた指導者たり得る器であることを、17歳の時点で受けたインタビューに続いて、改めて示した。慎重に選んだ語彙を駆使する彼の立派な英語は、金漢率氏が北朝鮮人民だけでなく、海外にも正統な指導者として広く認知される可能性の高さを知らしめる効果があった。そのため、その存在は北朝鮮国内ではほぼ全く知られていないにもかかわらず、金正恩を潜在的に、根底から脅かす存在と化したのだ。
■金正恩・金漢率、2人とも出自に難あり
ちなみに、北朝鮮の「国父」金日成と息子・金正日の「白頭の血統」を継ぐ両人は、どちらも「出身階層」に難がある。金正恩の母は、北朝鮮帰国事業で北朝鮮に渡った大阪市鶴橋生まれの元在日朝鮮人の高英姫氏であり、金正日から日本風に「あゆみ」と呼ばれていたともいわれる。高英姫氏の父は、大阪府の軍需工場で日本軍勝利のため生産に従事した、「敵対階層」に属する高京澤氏である。
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