福島県いわき市の医療崩壊
Japan In-depth / 2017年5月26日 19時30分
上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
【まとめ】
・福島県いわき市の医療が崩壊の瀬戸際に直面している。
・人口10万人当り医師数172人、ブラジルやエクアドルの平均とほぼ同レベル。
・地域医療に真剣に取り組む医療グループが病床を増やせない現実がある。
・行政には「市民目線」が求められる。
■いわき市が直面する医療崩壊
福島県いわき市の医療が崩壊の瀬戸際にある。本稿では、この問題について解説したい。
いわき市の人口は34万6439人(2017年5月1日現在)。中核市に認定され、福島県内最大の都市である(郡山市は33万4928人、福島市28万2184人)。
この地域の医師が不足している。人口10万人あたりの医師数は172人、全国平均の234人はおろか、福島県平均の189人を下回る。これはブラジルやエクアドルなどの平均とほぼ同レベルだ。
今年2月には市立総合磐城共立病院が肺結核患者の入院受け入れの停止を発表した。年度末で呼吸器内科の常勤医が定年退職し、後任が確保できなかったためだ。現在、いわき市内に呼吸器内科の常勤医はいない。
■救急医療も危機的状況
もっと深刻なのは救急医療だ。震災前の2009年に救急車が出動したのは1万1256件だったのが、年々増加し、2015年には1万3477件となった。平均して毎年3%ずつ患者が増えたことになる。この間、増加した搬送患者の86%が高齢者だ。高齢化が進めばますます救急医療のニーズは高まる。
この間、いわき市内の医師数は横ばいだ。この結果、救急車は「たらい回し」されることになる。救急車が現場に到着してから、病院に収容されるまでの時間は2009年に30分24秒だったのが、2015年には36分18秒に延長した。
特に悲惨なのが脳外科だ。東北地方は脳卒中の発症率が高く、脳卒中の治療は時間との争いだ。ところが、脳卒中を治療する脳外科医の数が足りない。
2014年12月現在、いわき市内には脳外科専門医は12人しかおらず、人口10万人あたり3.6人だ。これは全国平均の5.0人、福島県の平均の4.5人を下回る。患者は多いのに、医師は足りない。
この地域で活動する救命救急士は「いわき市内で受け入れて貰えない場合、遠く離れた郡山や南相馬市内に搬送します」という。いずれも距離は80キロを超える。郡山に行く場合、阿武隈高地を超えねばならない。冬場は積雪する。片道2時間以上かかることもある。これでは助かる命も助からない。
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