海自ヘリ選定巡る下克上と内局 その1
Japan In-depth / 2017年6月25日 8時0分
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
海上自衛隊ではDDHに搭載する汎用ヘリコプター、UH-X(次期多用途ヘリコプター)を選定し、2018年度までに9機のヘリを調達、最終的には合計15機を調達する計画があった。昨年末に武居智久海上幕僚長(当時)が海上自衛隊のUH-X(次期多用途ヘリコプター)の機種選定において、内部手続きの規定を超え、部下に対して特定の機種に誘導する不当な圧力を加えたとして処分された。
だがその実態は調達担当者の下克上であり、それを内局が政治利用したものである。だが、この件に関するマスメディアの多くは分析も行わず、取材もせずに防衛省の公式見解だけをそのまま報道しただけの悪しき「発表ジャーナリズム」的なものが多かった。
来年度の防衛予算ではこのUH-Xの予算が仕切り直しして要求される予定だ。だが、このままでは本来ふさわしくない候補のヘリが要求され、採用されるだろう。そうなれば税金の無駄使いに終わるだけではなく、護衛艦隊の能力は著しく低下する。これは由々しき事態だ。
そうなれば海幕の「青年将校の反乱」「独断専行」が是とされることになり、自衛隊の統制、さらには文民統制を揺るがす前例ができることになる。
この件についての武居海上幕僚長の指摘は当然のものだった。そもそもの発端は海自の最高意思決定会議である海上自衛隊会議が決定した大きなヘリが必要というのを、調達現場が、小さくて安いヘリがいいと独断専行で調達を歪まげたことにある。
その経過を海幕長は知らされず、それを是正しようとしたら、木を見て森を見ない監察本部から指弾されたというのが実態だ。そして内局もその独断専行を支持し、監察の結果に事務次官も防衛大臣や副大臣なども異議を唱えなかった。
つまり現場の将校が独断専行した旧軍の満州事変や北支事変を軍部上層部や政治が追認したのと同じ構図である。これが「悪しき前例」となれば自衛隊では上官が部下を指導できなくなり、下克上や現場の独断専行が横行するようになるだろう。これは文民統制上でも大きな問題だ。
今回のUH-Xは主として事実上のヘリ空母であるDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)に搭載され、補給艦から護衛艦などの物資の運搬や、事故や戦闘などで護衛艦が沈没したり、P-3CやP-1といった哨戒機が墜落したりしたときの救難などの任務を想定している。
当然ながらそれなりに大きな搭載量が要求される。ヘリの場合、機内に搭載するだけではなく、機体下部に貨物を懸吊して輸送するが、この種の任務ではこれらの搭載能力が大きいに越したことはない。
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