陰謀説の読み方③ ロッキード事件の謎
Japan In-depth / 2017年7月3日 9時59分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ロッキード事件は日米両国間の陰謀説の代表格だが、それを証明する材料はなかった。
・最近ではTPPは米が日本の富を収奪するための謀略、との陰謀説が浮上した。
・9.11にまつわる陰謀説を日本の国会議員が唱えたことが、米で話題にもなった。
■ ロッキード事件と陰謀説
日米両国間の陰謀説といえば、やはりロッキード事件を排することはできないだろう。
1976年にアメリカ議会での関係者の証言から幕を開けたこの事件は日本を直撃し、田中角栄元首相の逮捕と起訴にまでエスカレートした。この事件に対しても日本側では陰謀説が広範にわきあがり、40年後の現在でも石原慎太郎はじめ著名な人物までが「アメリカ政府の陰謀だったのだ」と唱えている。
私はこのロッキード事件でもロサンゼルスやワシントンで取材にあたった。その結果、アメリカの政府や議会が司法当局と事前に組んで、田中角栄をつぶすという政治的な意図から刑事捜査を断行した――という陰謀説を証明するような材料はなに一つ、みつけることができなかった。
ロッキード事件とは、当時の権力者の田中角栄が、アメリカの航空機製造会社ロッキード社の代理店である商社、丸紅の請託を受け、全日空にロッキード社の新型旅客機であるトライスターの選定を承諾させ、その謝礼として5億円を受け取ったとされた受託収賄罪事件である。
1976年2月にアメリカ議会の公聴会で明るみに出て、同年7月には田中元首相が逮捕された。その後の裁判では田中被告の有罪判決が出たが、事件は最高裁判所にまで持ち込まれ、結局、1995年2月の最終審判決で田中被告の五億円収受も認定された。有罪が確定したわけだ。
この事件をめぐっては日本側での表面化の発端がアメリカ議会での暴露だったことなどから、「アメリカの陰謀説」が渦巻いた。事件からちょうど40年の2016年2月にもアメリカ陰謀説の大家の孫崎亨元イラン大使が「田中角栄氏はキッシンジャーにやられたのです」と語る言葉がテレビ番組でも紹介された。その理由としては「アメリカは当時、中国のエネルギー資源を狙っており、日本に先を越されて恨みを抱くようになった」という解説も流された。
だがロッキード事件の陰謀説は日本側でも実は明快に否定されていた。この事件の取材にあたった毎日新聞の当時の社会部長だった牧内節男が2016年はじめに改めて以下のような一文を書いていたのだ。
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