一国主義への揺り戻しか 英仏総選挙が示すもの 上
Japan In-depth / 2017年7月6日 7時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・英国総選挙、与党保守党惨敗、野党労働党は大躍進。EU離脱交渉に支障。
・与党の敗因は緊縮財政を公約にしたこと。
・英国民の関心は、雇用、財政、福祉に移っている。
6月8日、英国下院議員選挙=総選挙の投開票が行われた。小選挙区制なので、翌日の未明までには全議席が確定する。結果は、すでにマスコミでも報じられた通りで、メイ首相率いる与党・保守党は過半数を割り込む惨敗。
一方、最大野党の労働党は議席を大幅に増やし、コービン党首は堂々の「勝利宣言」を発した。しかしながら、現実には保守党が第一党の座を維持したものの、どの政党も過半数を取れない「ハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)」となったのである。
当然ながら政局の混乱は避けられず、予定では6月19日から開始されるEU(欧州連合)からの離脱交渉にも影響が出るのは必至と見られている。
本来、英国下院議員の任期は5年で、過去には日本と同様、首相に解散権が付与されていたが、現在では議会の同意が必要だ。逆に言えば、メイ首相は2020年まで総選挙を行う必要はなかったのである。
にもかかわらず、今年4月に議会を解散し、総選挙に打って出たのは、前述のEUからの離脱交渉に向け、政権基盤をより強固にしたい、との思惑であった。
この時点で、労働党のコービン党首は、
「左翼なので、党内基盤(具体的には労組青年部などの支持)はともかく、大衆的人気はない」
と見なされており、現実に保守党と労働党との支持率の差は、25ポイント以上もあった。地滑り的な圧勝も見込まれていたのである。
もうひとつ、これも読者はご承知と思うが、メイ首相は昨年、EUからの離脱の是非を問う国民投票の結果、残留を主張したキャメロン首相が辞任に追い込まれ、急遽行われた保守党党首選挙で今の地位を得た。つまり、メイ内閣もメイ保守党も、未だ総選挙の洗礼は受けておらず、真に国民の信任を得たのかと問われれば、イエスとは答えられない。
ならば、どう考えても最大野党の労働党に支持が集まりそうもないこのタイミングで解散総選挙、という発想に至るのは当然だろう。将棋にたとえれば妙手ではなく必然手だ。
ところが、ここに大いなる誤算があった。死に体とまで言われていたコービン労働党が、
「我が国の労働者を苦しめているのは、移民の増加よりも、保守党政権による緊縮財政だ」
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