「原爆の日」に感じた違和感
Japan In-depth / 2017年8月20日 17時7分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「原爆の日」、広島・長崎の宣言は北朝鮮の核開発には言及せず。
・両宣言は「核兵器禁止条約」に日本が賛成しなかったことを批判。
・日本の安全保障への配慮や北朝鮮の核の脅威への対策なしに、一方的な防衛放棄を叫ぶ論調はどうであろうか。
アメリカの首都ワシントンにいて、広島と長崎の「原爆の日」を考えると、核兵器に対する日米両国の視点の違いを改めて感じさせる。原爆を落とした側と落とされた側と、その思考や感覚が白と黒ほど異なるのは当然だろう。
写真:平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)平成28年度 出典/広島市HP
しかし核兵器という危険な存在の危険度を減らそうという努力は日米共通だともいえそうだ。ワシントンではいま北朝鮮の核兵器の廃絶を求める主張が官民で熱っぽく語られる。アメリカにとっても目前の最大の核の危機である北朝鮮の核開発を阻止するために外交、経済、軍事などの具体的な手段が提起される。
いや北朝鮮の核兵器は全世界にとっても切迫した脅威だといえよう。国連での制裁の動きをみれば、明白だろう。北朝鮮の核開発を非難し、防止するための経済制裁の強化に中国やロシアまでが賛成した事実はグローバルな懸念を物語っている。
ところが日本側での広島、長崎の8月の6日と9日の宣言を改めて読むと、北朝鮮の核開発にはただの一言の言及もない点が強く印象に残る。日本にとって国家の根幹までも揺さぶられる重大な脅威であるはずの北朝鮮の核兵器開発には広島、長崎の両市長の宣言はまったくなにも触れていないのだ。
アメリカの官民が必死となって対策を論じる北朝鮮の核武装、国連で文字どおり全世界の主要国こぞって阻もうとする北朝鮮の核兵器開発、その同じ核兵器の悪や危険を叫ぶ日本での集会では北朝鮮という言葉さえ出てこないのだ。どうしても違和感を覚えた。なぜなのだろうと、疑問を感じた。
ただし私は「原爆の日」自体を批判しているわけではない。広島や長崎の記念日でふたたび想起される被爆者たちの悲劇を軽視するわけでもない。この点は誤解のないように強調したい。
広島や長崎の毎年の儀式は被害者の追悼が主体であることは理解している。自分自身、日本国民として被爆者への同情は人一倍に持つつもりだ。たとえ日本の反核運動が反体制勢力や共産主義陣営に政治利用されてきた経緯があったとしても、出発点での人間の心情は尊重されるべきだと痛感する。
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