カズオ・イシグロの「日本人性」を読み解く1
Japan In-depth / 2017年10月7日 9時8分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏は長崎生まれ、イギリス育ち。
・英国人イシグロ氏の日本人性を強調し、その作品の「二重性」に注目する批評家も。
・「日本人性とは何か」が時代の波に翻弄される様子は、イシグロ文学にも色濃く表れている。
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世界的なベストセラー作家で元日本人・帰化英国人のカズオ・イシグロ氏(62)が2017年のノーベル文学賞に選ばれ、日本では祝福の声が上がっている。同時に、英国育ちで日本語が苦手、アイデンティティが英国人のイシグロ氏の「日本人性」についてどう解釈すればよいのか、多くの迷いがみられる。このシリーズでは、その「引っかかり」を解きほぐしてみる。
米紙が指摘する「二重性」
イシグロ氏の受賞について欧米メディアでは、「どの国の人が読んでも心を打たれる普遍性」という切り口でとらえた報道が多い。そうした分析は、イシグロ氏を「英国人」として描く。
5歳で郷里の長崎を離れ、北海油田開発のため英国政府に招聘された海洋学者の父に連れられ渡英したこと、日本との絆が深いことは重要な背景として触れられるが、大半の論評はイシグロ氏の流麗な文体や、市井の人々に対する暖かい眼差し、作品中での「記憶の再構築」の重要性など、普遍的な要素にスポットを当てている。
こうしたなか、イシグロ作品の「二重性」に注目する批評家もいる。米『ニューヨーク・タイムズ』紙の文学評論担当記者、ドワイト・ガーナー氏は、「イシグロ氏は、1994年にノーベル文学賞を受賞した大江健三郎に次ぐ日本生まれの受賞作家となる」という表現で、英国人イシグロ氏の日本人性を強調した。
カズオ・イシグロの日本人性とは、何なのか。それは、イシグロ氏が1954年に長崎市新中川町で父の石黒鎮雄と母の静子の間に、石黒一雄として生まれた時に遡る。地元の幼稚園に通い、ごく普通の生活を送っていたが、5歳で回りに日本人のいない英国のコミュニティへと移される。
▲写真 Kazuo Ishiguro 2005年 Photo by Mariusz Kubik
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