1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「アベノミクスで格差拡大」は本当か?

Japan In-depth / 2017年10月26日 8時34分

また、前述のジニ係数も相対的貧困率も世帯収入を元にしているため、世帯内の就労状況がわからないというネックもある。例えば、親の収入だけでは食べていけず、子どもが進学をあきらめて働きに出ると、その世帯の収入はアップしたことになる。

話を戻して、では2012年と2015年の貧困線がどうなっているかというと、両年とも同じ122万円になっている(横這い)。だとすると、安倍首相が言うように相対的貧困率の16.1%から15.6%への減少は素直に「改善」と受け取れる。

しかし、あえて「いや、そうではない」と主張することもできる。貧困線には、「名目値」と「実質値」があって、122万円というのは名目値なのだ。実質値は物価水準を加味した数値で、1985年の消費者物価指数を100として調整している。厚労省の「国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問」(注4)でも〈物価の推移も考慮して年次推移を観察したい場合は「実質値」を使ってください。〉と、実質値での比較を推奨している。

そこで、この貧困線の実質値を計算すると、2012年の111万円から2015万円は106万円へと下がっていることがわかる。2012年の実質貧困線を元に2015年の数値を概算すると、全人口の相対的貧困率は17.0%で12年より1.7ポイント上がっている(子どもの貧困率は15.0%で若干下がっている)。このことをもって「貧困率は実質的には改善されていないではないか」と主張することはできなくもない。

この「名目」と「実質」でしばしばせめぎ合うのが賃金だ。名目賃金は労働者が受け取る給料の額そのものだ。実質賃金はそれに物価指数を加味したもので、受け取った賃金によってどれだけの物品が購入できるか(購買力)を示した数値だ。安倍政権下では、名目賃金は微増傾向にあり、実質賃金は下落が続いた。このため、政権与党は名目賃金を引き合いに出して「アベノミクスの成果があがっている」と主張するのに対して、野党は「実質賃金が下がっているから好景気の実感はない」と批判する。まったく逆のことを言っているにもかかわらず、それぞれに根拠がないわけではない。

総選挙の投開票日に放送されたテレビの“選挙特番”で、複数の局が「安倍政権下で労働者の賃金が上がった」と報じていた。参照していたのは国税庁の「民間給与実態統計調査」(注5: これは名目賃金)のデータと思われる。それによると、2012年に正社員の平均給与が468万円だったものが2016年には487万円に上昇した。同じく非正規雇用者の平均給与も168万円から172万円へとアップしている。アベノミクスの成果かもしれない。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください