ノーベル文学賞と言語の関係 ノーベル賞の都市伝説その1
Japan In-depth / 2017年11月12日 23時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏の作「私を離さないで」が日本でベストセラーに。
・ノーベル文学賞は、「英語で書く人の方が圧倒的に有利」という話がある。
・受賞者の母国語は25カ国語にまたがっており、国籍や言語は本質的な意味はない。
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10月下旬のある日、東京・池袋のジュンク堂書店に立ち寄ってみたのだが、カズオ・イシグロ氏の『わたしを離さないで』がベストセラーの1位、しかも品切れとなっていた。
▲写真 「私を離さないで」(ハヤカワepi文庫)カズオ・イシグロ著 土屋政雄 (翻訳)
さすがノーベル文学賞のインパクトだが、他の著作は在庫があるのに、どうしてこの本だけが……と疑問に思って検索してみたところ、2005年に刊行された同作品は2010年に英国で映画化され、さらにわが国では2016年に綾瀬はるか主演でドラマ化されていたことが分かった。しかも、ノーベル賞に合わせて再放送されたという。やはり昨今の本の売れ方は、こういうものであるらしい。
▲写真 TBS系列ドラマ『わたしを離さないで』(2016年1月期金曜ドラマ枠で放送)を2017年10月18日から深夜枠で再放送した。 出典:TBS「私を離さないで」HP
ノーベル賞のインパクトということで言うと、本誌でも国際ジャーナリストの岩田太郎氏が、『カズオ・イシグロの「日本人性」を読み解く』と題する記事を寄稿されている。岩田氏は作品の具体的な評価より、二重国籍を認めていない日本の問題点を見直すことから、イシグロ氏の立脚点を見つめ直したもので、大変おもしろかった。
ただ、本シリーズはノーベル賞全般について語られる様々な「都市伝説」を検証してみようという試みで、また、小説も書いている私としては、どうしてもカズオ・イシグロ氏の言語感覚に着目せざるを得られない。
よく知られる通り、氏は長崎県出身。両親ともに日本人である。5歳の時、石油会社のエンジニアだった父親が、北海油田の仕事に就いたため一家で渡英。間もなく日本の小学校に入学するという時に、日本語を解する友達が一人もいない、という環境に、突如放り込まれたのである。氏はこのことをもって、「僕の日本語は5歳から進歩していない」などとマスコミに語っていたが、これは多分に謙遜であるらしい。
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