トランプによる不安定化加速【2018:中東】
Japan In-depth / 2018年1月1日 17時37分
その一方で、イランとライバル関係にあるサウジアラビアはイランの脅威を強く喧伝し、シーア派勢力が伸張する諸国で対立や衝突にまで発展している。特に、イランが支援するフーシー派と勢力拡大を図るイエメンとの間では空爆やミサイルの応酬が継続している。イエメンにおける伝統的な反サウジ感情のみならず、イランとサウジの敵対関係に鑑みれば、問題が一朝一夕に解決するとは考えにくい。
このサウジアラビアでは、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が実権を握って以降、王族をもターゲットとした社会改革と共に、経済改革が進まない中、国民の不満を外に向けるためか、冒険主義的な外交政策も目立っている。レバノンやシリア、イエメン等への介入政策は、経済改革と油価をにらみながら今後も継続することとなろう。
▲写真 ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子 2017年3月16日 flickr: James N. Mattis (DOD photo by Sgt. Amber I. Smith)
その油価であるが、産油国にとって最悪の状況を脱し、産油国の非化石燃料分野での成長も3%を超える状況になってきたところ、石油に依存しない経済改革の推進は2018年にも加速していくであろう。他方、ドバイや欧州での油価と比較し米国のWTI価格が低迷している状況は継続している。これに対して湾岸産油国はカルテルの維持や大統領選挙を控えて油価の高値維持を狙うロシアとの連携等により、油価の維持を図る構図となろう。その一方で中東情勢は、エネルギー価格に大きな影響を与える要因となり注目される。
■ イスラーム国の支配地域奪還の動きと反米過激派勢力の台頭
1990年の湾岸危機、2010年の「アラブの春」を経て継続する中東諸国の内政は、難民危機や武装派過激勢力の台頭をもたらし続けている。2017年にはシリア並びにイラクにおいてイスラーム国が大きく勢力を後退させた。
https://twitter.com/HaiderAlAbadi/status/884463439829139457
▲モスル奪還を宣言するアバーディイラク首相のTweet
しかしながら、ガザ地区やシナイ半島、イエメンやアフガニスタン等でイスラーム国は地道に勢力を拡大させており、シリアの一部地域でも支配地域奪還の動きが残っている。これに加えて中東諸国の不安定は、複数の反米過激勢力を生み出してきており、ソマリアやシリアはその最前線となっており、これら勢力の拡大や国外流出に注目すべきである。
また、パレスチナ人の憤怒もたまってきている他、アラブの春でダメージを受けた多くの国々においても社会的不満が是正されず、あるいは一部に不安定が残っているところ、これらのマグマがいかなる方向に向かうかに注意すべきであろう。
注1)カチューシャ 小型ロケット砲全般の呼称
注2)IED(Improvised Explosive Devic)即席爆発装置。アフガニスタンやイラクなどで多用された
▲写真 BM-21 ソビエト連邦が1960年代初頭に開発した122mm自走多連装ロケットランチャー。現在ロシア軍が使用。他の多くの国でも使用されている。ヒズボラも使用。 Photo by Wikifreund
トップ画像:モスル奪還を宣言するイラク アバーディ首相 2017年7月11日 出典 Twitter Haider Al-Abadi
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