だから「十字軍」は憎まれる イスラム脅威論の虚構 その6(上)
Japan In-depth / 2018年3月18日 22時40分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ブッシュ大統領「十字軍発言」でムスリムの怒りは米国に。
・十字軍は占領地で略奪や強姦などの蛮行をさかんに働いた。
・ローマ法王庁はキリスト教原理主義のルーツのごとき思想的傾向を持っていた。
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あの9.11(2001年9月11日に米国で起きた、同時多発テロ事件)の衝撃的な映像は、20年近く経った今でも記憶に新しい。
しかし、事件後ほどなく(16日)ジョージ・ブッシュJr.大統領の口から出た、史上最悪レベルの失言は今や忘れられようとしている。彼は、こう言ったのだ。
「この十字軍、このテロとの戦いは、すでに始まっている」
この発言、とりわけ十字軍という単語が、全イスラム社会を震撼させ、中東諸国はもとより、ヨーロッパ諸国からも非難の声が上がった。ホワイトハウス筋は、「全イスラムを敵視しているわけではない」 とコメントし、火消しに躍起となったが、時すでに遅し、だったのである。
事件直後、イスラム系の人々の怒りは、もっぱらテロリストたちに向けられていた。ごく一部の頭のおかしい連中のせいで、欧米諸国とイスラム諸国との関係が悪化したら、どうしてくれる、といった受け止め方をしていたわけで、いたって常識的な反応だった。
そのように、当初はテロリストたちに向けられていたイスラム系市民の厳しい目が、十字軍という言葉を聞いたとたんに、今度は米国に向けられるようになってきた。
現実問題として、その後ほどなくイラクやアフガニスタンが激しい空爆にさらされ、多くのイスラム系市民が犠牲となったわけだが、こうした行為は、中東の地で虐殺や略奪をほしいままにした十字軍と、まさしく二重写しだったのだろう。
▲写真 首都バグダード、アル・ドゥーラ地区で銃撃戦を行う米軍兵士 2007年3月7日 Photo by Staff Sgt. Sean A. Foley
1095年、セルジューク朝(トルコ人主体のイスラム王朝)との国境紛争で劣勢に立たされた、東ローマ帝国の皇帝アレクシオス1世コムネノスが、時のローマ法王ウルバヌス1世に、援軍を依頼した。その大義名分として、「異教徒に占領されている聖地エルサレムの奪還」を訴えたわけだが、皇帝の本音はせいぜい傭兵部隊を派遣してもらうことで、十字軍のごとき本格的な遠征軍ではなかったと衆目が一致している。
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