イスラム圏永遠の禁句「十字軍」 イスラム脅威論の虚構 その6(下)
Japan In-depth / 2018年3月19日 10時32分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・十字軍の戦い=”crusade”は「正義の戦い」を意味する一般名詞となった。
・アメリカを支持しない者は全て「異教徒」だとして蛮行を聖戦と言い張るのは「十字軍的発想」。
・ ムスリムの心情を考慮せず十字軍と口にしたブッシュ元大統領の思慮のなさ。
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もともと十字軍の戦いを意味する”crusade”という単語は、固有名詞として「聖戦」と訳すのがもっとも自然だが、いつしか正義の戦いを意味する一般名詞となってきた。
フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』が英語のミュージカルとなり、さらには映画化されているが、その中で、王政復古に反対して武装蜂起(1832年のいわゆる6月暴動)した若者たちが歌う「民衆の歌」に、こんな歌詞が見られる。
写真)ヴィクトル・ユーゴー
出典)パブリックドメイン
”Will you join in our crusade? Who will be strong and stand with me?”
劇団四季の公演など、日本語で歌われる際には、単に「列に入れよ、我らの味方に」となっているが(岩谷時子・訳詞)、たしかにこの場合のWill you……?は疑問系というよりほとんど命令形のニュアンスで「正義の戦いに加わるのだ。わが方の強い味方はまだいるだろう」といったほどの意味になる。曲がついているので音韻を整える必要があることを考えれば、岩谷時子さんは、さすが名訳をなしたと思う。
ともあれ、現代英語の”crusade”が、キリスト教の聖地を守るための戦い、という原義にさほどこだわらずに使われていることは、これでお分かりいただけるであろう。
順を追って、その理由を考えてみよう。
十字軍が中近東で大いに蛮行を働いて、当地のキリスト教徒からも怨嗟の声がわき起こったことは前稿で述べた通りだが、彼らを送り出したヨーロッパの側には、もちろん異なる視点が存在する。
第一に、これはヨーロッパの諸侯と民衆が一致団結して事に当たった最初の事例であるとされる。と言うより、この大規模な軍事行動を通じて、「ヨーロッパとは異教徒の脅威に対抗する、キリスト教徒の運命共同体である」という認識が次第に根付いていったのである。北方においてはロシア、南方においてはトルコとの境界までをヨーロッパと見なす考えが定着したのは、だいぶ時代が下ってからのようだが。
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