木を見て森を見ぬイスラム論 イスラム脅威論の虚構 最終回
Japan In-depth / 2018年5月1日 9時55分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・イスラム過激派と、イスラム系の人々を混同してはいけない。
・現在のイスラム社会は大いに変わってきている。
・イスラムも一部の「現実」を見て全体を判断してはいけない。
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本シリーズも最終回を迎えることとなった。ISをはじめとするイスラム過激派と、イスラム系の人々を混同してはいけない、というのがシリーズの趣旨であったわけだが、私が危惧していた通り、昨今イスラムに対する偏見を助長しかねない(もしくは、故意に助長しているとしか思えない)言説が増えてきたように思う。
ネット上の言説など相手にする必要はない、と言う人もいるのだが、ネットメディアで仕事をしている人間としては、それでは通らないし、そもそも今の世の中、ネットの影響力を無視などできないことは、今さら多言を要すまい。
拡散が続いている「イスラム脅威論」とは、煎じ詰めれば、ISのような集団が出てくるのは、イスラムは本質的に非寛容な宗教で、女性の人権など認めておらず、反面、異教徒に対するテロ行為には寛大だ、といったところであろうか。
すべて、間違った認識である。まず女性の人権の問題から言うと、たしかに私自身、イスラム圏では歴史的に女性の地位が低かった、という表現を用いたことはある。もしも読者に誤解を与えたとすれば、まことに申し訳ないことであったとは思うが、あくまでも前近代までの話であり、世界的に女性の人権など顧みられてなかった当時に、イスラム圏だけが例外でありえようはずはなかった、というのが筆者の真意である。
そして、現在のイスラム社会は大いに変わってきているのだ。サウジアラビアでは未だに女性の運転免許取得が認められていない、ということが、よく引き合いに出されるが、サウド王家が信奉しているワッハーブ派は、イスラムの中でもかなり過激な宗派である(シリーズ第2回を参照)。
なおかつ(あまり大きな声では言えないが)、石油が湧いたおかげで発展できたに過ぎない国であり、国を挙げて近代化のために苦闘してきたという歴史は持っていない。
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