兵站軽視という悪しき伝統 昭和の戦争・平成の戦争 その1
Japan In-depth / 2018年8月10日 14時3分
一見すると、自衛隊は最新鋭の兵器を揃え、世界屈指の精強な実力組織(憲法上の問題があるので、軍隊という表現はここでは避けておくが)であるが、実のところ、もっとも基本的な部分である個人装備やロジスティックスを軽視する傾向があった。
写真)パラシュートで地上部隊に提供される米軍物資 アフガニスタン 2010年6月
出典)U.S. Department of Defense photo by Staff Sgt. William Tremblay
ロジスティックスという言葉は、民間ではもっぱら「物流」の意味で使われるが、軍事用語では「兵站」と訳されている。具体的な内容は、物資の調達・支給・修理、給食、ゴミや排泄物の処理(前線の陣地では、これが結構大変)、傷病者の後送・治療・入院、さらには郵便など各種のサービスまで、要するに戦闘以外のほとんどの軍事活動が含まれているのだ。
写真)郵便物を仕分けするアメリカ陸軍兵士
出典)The U.S. Army
昭和の戦争=アジア太平洋戦争について、「物量の差で負けた」で済ませてしまう人が今も少なからずいるが、ロジスティックスの差こそが前線における物量の差に直結することは言うまでもない。そもそも国民が「欲しがりません、勝つまでは」などという窮乏生活を強いられていたら、前線の兵士に豊富に食料が行き渡るはずがない。
写真)「ぜいたくは敵だ」と書かれたポスター(1940年)
出典)パブリックドメイン
たとえ食料・弾薬が豊富にあっても、それを前線に届けるための輸送手段や、その能力が貧弱ではどうにもならないわけだが、この問題ひとつ取っても、第二次世界大戦中、地上部隊の物資輸送を100パーセント自動車化し、馬匹にまったく頼らなかったのは、実は米軍だけであった。
車があっても運転する人間がいなければ、やはりどうにもならないわけだが、この点でも大戦中の米軍は、17歳以上の兵士全員に運転技術を習得させる方針をとり、そのてめにイラストを多用したマニュアルまで作成していた。
対する日本陸軍はと言えば、車の運転は「特殊技能」とされ、今となっては信じがたいことだが、陸軍の第一線部隊でさえ、トラックの運転ができる者は全将兵の5パーセントに満たなかったという。
その、運転者育成の教育がまたひどいもので、教則本の最初2ページは「貨物自動車とはなにか」という御託が書き並べてあり、それを一字一句暗唱できないと、運転を教えてもらえないどころか、張り倒されたのだ。
この記事に関連するニュース
-
「戦車にもなる」「負傷者も運べる」実はほぼラジコン!? 変幻自在の「ロボ車両」戦場を変える? 陸自はどう使うのか
乗りものニュース / 2024年7月6日 6時12分
-
「黒焦げにした」ロシアの軍用車10数両をウクライナ部隊が爆破...ドローン攻撃の「決定的瞬間」が公開される
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月5日 6時40分
-
NATOがエイブラムス戦車85両を含む機甲旅団をポーランドに配置、ロシアの動きを牽制
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月2日 14時54分
-
『ガンダム』戦果だけじゃない「アムロ最大の貢献」とは? そらジオンは勝てねーよ!
マグミクス / 2024年6月28日 6時25分
-
「敵に手の内をさらさない」という防衛省、自衛隊の「敵」は国会と納税者か
Japan In-depth / 2024年6月9日 19時0分
ランキング
-
1小池氏が都知事3選=石丸、蓮舫氏ら破る―保育無償「制度設計を推進」
時事通信 / 2024年7月7日 23時47分
-
2円安・物価高の一因「異次元緩和」の後処理策「資産課税くらいやらないと」 石川和男が指摘
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年7月7日 9時0分
-
3石丸伸二氏「国政も選択肢」=広島1区に言及―都知事選
時事通信 / 2024年7月7日 21時56分
-
4都知事選で3選確実の小池百合子氏「東京大改革をバージョンアップさせる」…支援者ら前にあいさつ
読売新聞 / 2024年7月7日 20時30分
-
5KDDI財団理事長を逮捕=覚醒剤所持容疑―警視庁
時事通信 / 2024年7月7日 17時36分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)