世界の良心 アナン元国連事務総長のレガシー
Japan In-depth / 2018年8月20日 10時52分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・紛争収束など功績多いアナン元国連事務総長が死去。
・ルワンダ、ボスニアでの後悔が氏の人道介入論につながった。
・アナン氏は国連と事務総長職を通じて「世界の良心」となった。
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国連職員から唯一国連事務局のトップである事務総長になったコフィ・アナン氏が逝去した。享年80歳だった。1976年末に、前任者ブトロス・ブロトス=ガリ事務総長が米国の拒否権で再任を阻止された直後に「ブラック・アフリカ」から初めて事務総長(第7代)に選ばれた人でもあった。
ガーナの部族長の家庭に生まれ、ガーナで経済学を学んだ後、米国ミネソタ州のマカレスター大学に学び、その後マサチューセッツ工科大学(MIT)で経営学の修士号を取得している。ミネソタ州は米国でも最も寒い地域であり、当初耳マフラーを着けずに寒さを甘く見ていたところ、凍傷になりかけ、厳冬の厳しさを学んだという有名な話がある。
▲写真 安全保障理事会でのアナン氏(2006年5月9日 国連本部)出典:UN Photo/Eskinder Debebe
アフリカ人でありながら西側の教養を身に着けていた人だが、若い頃に学んだアフリカの叡智が彼の神髄にあった。私が事務総長報道官室に勤務していた時、NBC放送局本部でのインタビューに付き添ったことがある。帰りに国連本部までどうやって帰るのか聞かれ、「タクシーで帰ります」と言ったら、「自分の車に乗りなさい」といって防弾の重い事務総長車で一緒に帰ったことがある。車中、「事務総長はよく格言を引用しますね」と話をすると、「アフリカにも格言は沢山ある」と言っていた。最後まで、自分はアフリカの子だと話していたらしい。そこには、アフリカ人としてのプライドがあったのだろう。
▲写真 第7代国連事務総長に選出された翌日、国連本部に入るアナン氏(1997年1月2日)出典:UN Photo/Evan Schneider
国連のキャリアは、最初ジュネーブの国際保健機関(WHO)から始まった。その後エチオピアのアジスアベバにあるアフリカ経済委員会(ECA)に勤務した後ジュネーブに戻り、国連事務局に務めることになる。人事局長をしていた時には、イラクのクウェート侵攻・併合という湾岸危機に直面し、イラクで人質となった人達の救出に現地に赴いている。
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