世界の良心 アナン元国連事務総長のレガシー
Japan In-depth / 2018年8月20日 10時52分
エジプト出身のブトロス=ガリが事務総長になり、冷戦後の新たな世界に対処するため事務局再編を行ったが、新たに創設されたPKO局のNo.2となり主にマネージメントの責任を与えられたが、PKO局長が政務局長に任命されるとPKO局のトップとなった。
旧ユーゴスラビアの分裂によるボスニアでの内戦の激化や、困難を強いられたソマリアでのPKO展開の中での任命であった。ソマリアでは、ガリ事務総長が提唱した「平和執行部隊」という、PKOにより強力な武力の行使権限を与えた新たな試みが行われたが、アイディード将軍派との武力衝突で国連PKOに多くの犠牲者が出て、さらに米国の精鋭部隊であるレンジャー部隊に大きな損失が出ると、時のクリントン米大統領はソマリアからの撤退を表明し、国連のソマリアPKOの失敗に繋がっていく。この時、アナンはPKO局長でありながら、米国レンジャー部隊の派遣を知らされていなかったと、後の回顧録で述懐している。
アナンにとっての最大の後悔は、1994年のルワンダでのジェノサイドを防げなかったことである。事前に現地のPKO司令官から多数派フツ族の過激派による武器備蓄の通報がありながら、当時のPKOのマンデート(任務)を超えるものだと判断して、武器押収の権限を与えなかった。実際に大量殺害が始まってもPKOの増派を認めなかったのは安全保障理事会であり、ソマリアで失敗した米国の新たなアフリカでの紛争に巻き込まれたくないといった態度や、現地のPKO要員に犠牲を出して撤退を促した元宗主国ベルギーなど加盟国だったが、国連PKOにとって大きな失態となった。さらに、翌年の1995年に起きたボスニアで安全地帯として国連PKOによって守られていたスレブレニツァでのジェノサイドも国連にとっての汚名となった。
しかし、この二つの教訓がアナンの後の人道介入論に繋がっていく。1999年のNATOによるコソボ空爆では、安全保障理事会の事前授権はなかったものの、人道的立場から例外的措置として間接的な支持を表明している。また、同年の東ティモールでの住民投票後の騒乱でも国際社会の介入を訴え、事態の鎮静に貢献した。このような介入論は、2001年にカナダの諮問委員会が提唱した「保護する責任」に対する全面的な支持となっていく。
イラクはアナンにとって外交的成果であるとともに、墓穴を掘ることにもなる。1998年のイラクの大量破壊兵器査察を巡るイラクと米国の緊迫した状況下でバグダッドを訪問し、懸案となっていたサダム・フセインの宮殿を含めた査察に関する合意を取り付けた。国連本部に戻ったアナンは英雄的歓迎を受けたが、同年末米国のイラク爆撃を受け、査察は一時打ち切りとなった。2003年のイラク戦争時には、米国の国連を無視した一方的武力行使を受けて、これは国際法に準じものではないとして批判したため、ブッシュ政権から批判され、イラクの人道的「石油と食料交換計画」での汚職問題では行政管理能力を問われて苦しい立場に置かれた。
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