敗戦から得る、本当の教訓 昭和の戦争・平成の戦争 その8
Japan In-depth / 2018年10月5日 8時34分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ノモンハン事件の新側面判明。教訓得たソ連と惨敗に目をつぶった日本。
・昭和の戦争から教訓をくみ取り、敗戦の事実や原因から目をそらすな。
・無責任な「自衛のための実力組織」にせぬために、不都合な事実の直視を。
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歴史は苦手、というような読者でも、この呼び名くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
「ノモンハン事件」
1939(昭和14)年5月から9月にかけて、日ソ両国の間で起きた大規模な戦闘である。もう少し厳密に言うと、日本の傀儡国家であった満州国と、モンゴル人民共和国とが引き起こした紛争(双方の国境警備隊による銃撃戦)に、日ソ両軍が大規模な介入を行い、大規模な地上戦となったものである。
もともと問題の国境線は、中華民国とモンゴル人民共和国との話し合いで確定し、国際的に認知されていたのだが、独立宣言後の満州国が新たな国境線を主張したもので、つまり原因は満州国の側にある。
この「事件」がどうして有名なのかと言うと、多数の戦車を繰り出してきたソ連軍に対し、銃剣と火炎瓶で武装した歩兵をもって戦った日本軍は、主力部隊の死傷率80%という、世界の戦史を見渡してもあまり類例を見ない惨敗を喫したからだ。
後に太平洋戦線で「玉砕」が多発したので、死傷率80%と言われても、ぴんと来ない、という向きもあるだろうか(怖いことだ……)。近代戦においては、部隊の人員の25%以上が戦闘能力を喪失したならば「全滅」と判定されるというのが、国際常識なのである。
ただ、ソ連が崩壊して様々な機密文書が公開された結果、これまであまり語られてこなかった、この事件の別の側面も見えてきた。
実は、死傷者の数それ自体は、ソ連軍の方がかなり多かったのである。もちろん、このことだけをもって、史実としての勝敗までがくつがえるわけではない。よい例が日露戦争で、死傷者の数だけを見比べたなら、日本軍の方がかなり多かった。
しかし、満州・朝鮮を実質的な支配下に置こうという、帝政ロシアの戦略意図を挫き、なおかつ敵の勢力圏内に軍を進めて、旅順要塞を攻め落とすなどの戦果を挙げた。
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