英国新聞事情(下)~ロンドンで迎えた平成~その1
Japan In-depth / 2019年2月4日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・英国では昭和天皇逝去のニュースは戦争責任論へと転じられた。
・英国紙の昭和天皇病床時の記事はジャーナリスト・人間としての品格が問われるもの。
・天皇存命中の譲位は「日本国と天皇家の伝統」に良い前例となろう。
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ある年代以上の読者はご記憶のことと思うが、昭和天皇が重篤な病気だという報道が流れてからというもの、日本国内では多くのイベントが自粛された。1988年の忘年会、そして89年の新年会は、大半の企業が見合わせたと記録にある。
そして1989年1月7日、昭和天皇崩御が発表されてからは、TVが追悼番組一色になった。おかげで各地のレンタルビデオ店が大繁盛したと、これまた記録にある。
私は、すでに述べたように、ロンドンで現地発行日本語新聞の仕事をしていたわけだが、この日、午後11時のBBCニュースで、「ジャパニーズエンペラー・ヒロヒト死去」が伝えられ、以降『英国ニュースダイジェスト』編集部の電話は、深夜まで鳴り続けた。
宮内庁の藤森昭一長官が昭和天皇の崩御を発表したのが、東京時間の7日午前7時55分。9時間の時差があるロンドンでは6日夜10時55分のことであったが、5分後にはロンドンでニュースが流れたわけだ。インターネットこそ、まだ普及していなかったものの、高度情報化社会ということは当時から言われていて、たしかに大変な時代に我々は生きていたのである。
第一報は前述のようにBBCニュースで、当時の東京特派員だった、ウィリアム・ホーズレー氏が都内の様子なども織り交ぜて伝えていた。戦争責任問題については、「今でも論争が続いている」と述べるにとどめていたが。
ちなみに同氏は、この時の取材の経験もあったためかどうか、少し後に、お仕着せの情報ばかり流して自由な取材活動を規制する、日本の記者クラブ制度を痛烈に批判し、有名になった。
そして翌朝、新聞各紙が一斉に大見出しで報じたが、日本で最も有名な新聞であろう『タイムズ』紙は、一面トップではなく二番目の扱いだった。トップは、当時カダフィ大佐が率いていたリビアにおいて、化学兵器の開発に成功した形跡ありとする記事で、やはり特ダネに軍配が上がったということなのだろう。
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