民政移管のタイ総選挙、タクシン派vs軍政 王室絡み複雑化
Japan In-depth / 2019年2月14日 14時6分
さらに2月8日にはタクシン支持派が究極のウルトラCとも言える「奇手」に打って出た。ワチラロンコン現国王の姉、ウボンラット王女を「タイ国家維持党」が首相候補者として届け出たのだ。
▲写真 ウボンラット王女(2018)出典:ウボンラット王女Facebook
同党はタクシン支持派の「タイ貢献党」の分党で、タクシン支持派の牙城でもあるため、王女担ぎ出しはタクシン元首相も絡んだ軍政打倒の切り札として練られた作戦だった。
タイでは王族、王室への批判はタブーで「不敬罪」に問われる可能性が高く、選挙に出馬した場合(もちろん前例はない)、対立候補や他の政党は王女を批判することが事実上不可能になることも考えられたのだ。
この王女擁立はプラユット首相、軍政、他の野党、そして王室への尊敬を抱く国民各層をも仰天させる事態となった。
海外で成り行きを見守っていたタクシン元首相も「王女が首相になれば帰国の道が開け、その先に政界復帰も見えてくる」と内心密かにほくそ笑んだのは間違いない。
■ 国王声明で事態は急転直下の展開
ところが、ウボンラット王女の出馬、つまり王族の政界への進出という異例の事態に最も怒ったのが弟のワチラロンコン国王だった。
▲写真 ワチラロンコン国王 出典:Open Educational Resources
届け出のあった8日の夜、タイのテレビ局は全ての番組を中断して国王の「王族の政治関与は許されていない」との異例の声明を放送した。
ウボンラット王女は米国人と結婚して王室籍を離脱し、離婚後タイに帰国して父のプミポン前国王の外戚として王位に準じた扱いを受けていた。王女は「私はもはや一般人、首相候補になる自由がある」と主張していたが、国王は「王室籍を離れてもプミポン国王の家族という王族の一員であり、政治への関与は許されない」と一刀両断のもとに覆したのだった。
タイでは国王はある意味「絶対権威」であり、その意向は最優先されるのが慣例である。国王のそれこそ「鶴の一声」でタクシン元首相、タクシン派の思惑は瓦解してしまった。
その後は雪崩のように軍政側による反タクシンの動きが次々と展開。王女の候補届け出は正式に拒否され、2月13日には「タイ国家維持党」による王女擁立が「立憲君主制に対する敵対とみなされる」と選管が判断して、「同党の解党」を憲法裁判所に申し立てた。
選管、憲法裁ともに一応中立の機関ではあるが当然、軍政というより国王の意向を「忖度」する可能性が極めて高く、憲法裁が解党を認めると同党の幹部は一定期間公民権が停止されることになるとされ、実質的な選挙戦に入る前に、軍政側の優位が強まっている。
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