日本の救命教育は世界水準の半分以下~世界が挑戦 市民への統合型救命教育~3
Japan In-depth / 2019年2月22日 18時0分
■ 世界はCall Push からCall CABへ
BLS(一次救命処置)のみ知っていても近年増加しているテロによる、銃創、爆傷、刃物による致命傷などの外傷の救命はできない。日本でも4月から救命止血帯による止血法教育が開始されるが、外傷により心肺停止状態に陥った場合、社会復帰率は1%に満たないため重症外傷傷病者を救命するためには、心臓が機能停止してしまう前に止血を行うことが救命の鍵となる。心臓のポンプ機能を維持できるように、液体循環におけるパイプに相当する血管からの血液の流出を抑えることで循環血液量を維持することが必要だ。そのために、受傷後1秒でも早く致命的な大出血を制御できる知識と技術を市民に普及するためのStop The Bleedキャンペーンが開始されることとなった。同キャンペーン関係者の話によれば、救命止血法の教育は非外傷性心肺停止状態の心肺脳蘇生法教育よりもかなり難しいと言う。
心肺蘇生法はガイドラインが2015年以前は5年毎に、2017年以降は毎年更新されるものの、市民用の方法が大きく変わることがない。手技も胸骨圧迫、気道確保、人工呼吸と少なく、部位も決まっている。使用する機材も感染防護シールドとAEDのみであり、しかもAEDは電源を入れると自動的に音声による指示が流れ、評価・判定も自動的に行われる。また、必要の無い傷病者に電気ショックを与えることが無いように安全機構も組み込まれている。周囲の音声や心電図も自動的に記録されるため事後の検証や実施者の保護の面の整備もされた体制にある。
その一方で、止血法は方法や手順が頻回に変わる上に、手技を適用する身体の部位も様々である。使用する器具や包帯材料も種類が様々であるし、方法、手順、手技、部位、資材の組み合せにより実施されるので複雑多岐に渡る内容について習熟しなければならない。しかも実施する際、AEDのように指示が流れてそれに従えば自動的に実行されるということも無いので、止血は救護者自身の記憶に従って行い、止血効果は救護者自身の技量により左右される。当然ながら記録も救護者自身がしなければならない。心肺蘇生法に比べて教育所要が大であり、識能の質の維持にも相当な手間を要する。少人数単位で指導者が手を取り懇切丁寧に時間をかけて教育をしなければならないし、識能のアップデートも頻回に行う必要がある。そこで、米国では軍隊経験者を教育者として活用することで普及に努めている。救命止血法は戦闘を経験した軍隊により研究され発展したものであるし、その重要性から将兵は、入隊直後から繰り返し、頻回に訓練を受ける。しかも、シナリオトレーニングを積み重ねていくので判断力・思考力も備わっているので教育者として最適の能力を備えているためである。
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