軽装甲機動車をAPCとして運用する陸自の見識
Japan In-depth / 2019年3月2日 23時0分
陸自がこのような不合理な運用を行っているのはコスト削減のためであろう。96式の調達コストは一輛あたり約一億二六〇〇万円で、一個小隊三輛ならば約三億七八〇〇万円である。対して「軽装甲機動車」は一輛約三二〇〇万円、一個小隊分で二億二四〇〇万円となり、差し引き一億五四〇〇億円の節約となる。昨今ではその単価も三五〇〇万円まで高騰している。しかも排ガス規制を受けて近年改良がなされて、価格が28年度予算では改良型6輌が3億円で要求された。単価は5千万円、約1.5倍に高騰した。このため財務省が難色を示して政府予算に計上されなかった。以後この改良型は採用されることは無かった。
「軽装甲機動車」搭載火器が搭載されていないのでその分安い。96式などが搭載している住友重機械工業が生産している12.7ミリ機銃の調達単価は一丁当たり五五〇~六〇〇万円、三輛分ならば約一七〇〇万円。これが必要ない(96式自動てき弾銃は更に高価である)。つまり車体と火器を合わせると一個小隊あたり一億七一〇〇万円ほどの「節約」となる。
さらに96式や73式ならば必要な車輛固有の乗員は各二、三輛で計六名削減できる。これがより火力の強い歩兵戦闘車であれば乗員が三名となるので、九名削減できることになる。その分人件費を削減できる計算になる。確かに調達コストと人件費を削減できるが、戦闘力は通常のAPCを使用する場合に比べて大きく減じている。
だが「軽装甲機動車」をAPC代わりに使っていると、今後恐ろしく費用が掛かることになる。今後陸自の装甲車輛は、デジタル通信機や、GPSナビゲーション、ネットワークシステム、状況把握システムを導入する。そのコストは決して安いものではない。「軽装甲機動車」をAPCとして使い続けるならば、単純計算でこれらの装備は96式などの二倍の数が必要となり、それだけ多額の投資が必要となる。
▲写真 軽機動装甲車 出典:著者撮影
「軽装甲機動車」にはもう一つ深刻な問題がある。装甲の薄さだ。陸幕が「軽装甲機動車」に要求したのは陸自で使用している5.56x28ミリ弾や7.62x39ミリカラシニコフ弾までしか耐えられない。これは主としてAK47などの小銃に使われるもだが、同じ7.62ミリ弾でも小銃だけでなく、機銃などで使用されるNATO標準の7.62x51ミリ弾、ロシア系の7.62x54ミリ弾では貫通するだろう。
これも調達コスト削減の一環である。もう一つの理由は陸自が普通科小隊の7.62ミリ機銃を廃止する決定をしたことだ。自分たちの機銃に耐えられると同レベルの武器を防げればいい、という発想である。しかも陸自の7.62ミリ機銃はNATO弾よりも威力が低い弱装弾である。
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