軽装甲機動車をAPCとして運用する陸自の見識
Japan In-depth / 2019年3月2日 23時0分
かつて筆者が陸幕広報室に確認したところ、日本での交戦距離は極めて短く、7.62ミリ機銃は必要ないと判断したとのことだった。7.62ミリ弾と5.56ミリ弾では威力が二倍近く違う。仮に短い交戦距離でも、互いにバリケードなどに隠れて撃ち合うような状態で、敵が7.62ミリ機銃を使えば撃ち負ける。これは近年のイラクやアフガンなどの戦訓でも明らかである。歩兵部隊から7.62ミリの軽機関銃を廃しているのは筆者の知る限り、世界で陸上自衛隊だけである。その理由が合理的とは思えない。
7.62ミリ機銃廃止の本当の理由は人件費とコスト削減である。7.62ミリ機銃のチームは通常射手、装弾手の二名、あるいはそれに分隊長を加えて三名で構成される。陸自の5.56ミリ機銃であるミニミならば射手一人で運用できる。つまり一丁あたり一~二名の隊員を削減できる。また5.56ミリ機銃のほうが7.62ミリ機銃よりも調達コストも弾薬のコストも安い。
だが仮想敵である北朝鮮は7.62ミリ弾の小銃を使用しているし、中国人民解放軍も小口径ライフルに移行中ではあるが、多くの歩兵はいまだ7.62ミリ機銃を使用している。また、自衛隊が派遣されるであろう世界の紛争地域で使用されている機関銃も同じである。当然ながら「軽装甲機動車」が7.62ミリ機銃弾で射撃を受けた場合、弾丸が貫通する可能性は高い。つまり北朝鮮の工作員や特殊部隊と戦闘になったら敵の機銃はもちろん、小弾でも貫通することになる。「軽装甲機動車」の開発時、被弾による2次被害を防ぐため、スポーライナーを採用することも検討された。だが、コストがかかるとして採用されなかった。
このためイラクのサマーワに派遣された「軽装甲機動車」はフロントガラスの防弾ガラスを厚くしたり、装甲を補強するなどの処置がとられた。この改良の一部はその後の量産型にも反映されているという。
さらにいえば、「軽装甲機動車」は地雷やIEDに対する備えがほとんど無い。海外で活動するPKOなどはもちろん、国内で予想されるゲリラ・コマンドーとの戦いでも非常に不利である。
また対NBC装備がなく、NBC戦や大規模なバイオハザードが生じた場合は戦力とならない。また陸自は島嶼防衛に対する備えを強化しているとしているが、「軽装甲機動車」にシュノーケルを装備するなどの措置は取られていない。
▲写真 軽機動装甲車 出典:著者撮影
陸自はこれまで約2千輛の「軽装甲機動車」を調達してきた。これは陸自の装甲車輛の調達ペースとしては「画期的」なスピードである。だが、これを大型のAPCに換算するならば、実質的に調達数は500輛ほど、年に50輛のペースに過ぎない。しかもこれだけ、見かけのAPCを増やしているにも関わらず、APCの数はまったく足りていない。緊急展開部隊であり、首都を防衛する中央即応集団でもAPCの不足は深刻である。一例を挙げれば、第一師団の第32普通科連隊は昨年度までまったくAPCがなく、本年度から一個中隊に「軽装甲機動車」が導入された。
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