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パフォーマンス理論 その5 短所

Japan In-depth / 2019年3月10日 23時46分

パフォーマンス理論 その5 短所


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)


【まとめ】


・「特徴」が環境によって長所にも短所にもなる。


・短所の改善方法:①問題個所を抜き出して地道に癖付けを行う②全体の動きになじませる③動きを意識しない練習も行う


・性格など改善不可能な「特徴」を活かす、環境や戦略を選ぶべき。


 


上達をしていくプロセスでは、問題となる部分を見つけ改善するので、短所は目につきやすい。一方で“短所”と“ただの特徴”の違いはわかりにくい。マイケルジョンソン独特の立ち上がったようなフォームを欠点として直そうとしたコーチも、特徴としてそのままにしようとしたコーチもいた。成功した後であれば特徴に過ぎない(もしくは強み!)とわかるが、成功する前には短所に見えていたかもしれない。


最初に“自分に短所がある”とどうしても考えがちだが、実際には環境によって持っている特徴が有利か不利かが決まり、不利になるものを短所と呼んでいるだけだ。個人に特有の短所はない。体が大きいことは戦いにおいては有利かもしれないが、食料が少ない環境では無駄なカロリーを使うので生存に不利になる。裏を返せば環境を変えれば短所は長所化する可能性がある。


例えば、私は地面に接地している時間が長くピッチが出にくかったので、100mには不利だったが、400Hのようなストライドをコントロールする競技では有利に働いた。身長が高いのはバスケットでは有利だが、体操では不利になる。視野が狭くなり集中する傾向にある選手は、チームではスタンドプレーになるが、個人競技では勝負強さとなる。


短所として認められる場合、それは改善可能なものか、改善不可能なものかを分けて考える必要がある。背の高さ、骨格や身体の形状、根本的な性格などは変えられないので、それが短所ではない種目や、短所ではなくなるように戦略を考えるべきだ。背が低いバスケット選手と、高い選手では戦い方が違う。一方で走り高跳びのようにある程度身長がなければ、上に行くのは厳しい競技では、高い目標を目指すなら競技自体を変更するべきだろう。性格は改善可能に思えるかもしれないが、案外と変えづらい。


私は子供の頃から顎を上げて走る癖があり、これさえ直せばもっと上に行けるはずだと、直したことがある、顎が上がらなくなるとなぜか特徴であったゆったりとした大きなバネのある走りができなくなった。自分なりに分析し、顎を上げることで腰が前方でロックされ、それによって腸腰筋にストレッチがかかって、足を前方に運べていたのではと仮説を立てた。それからまた顎が上がることを気にせず走るようにしたらまた昔の走りに戻った。このように短所が長所を支えていることもある。短所も全体の一部であり、短所を直せば必ず全体のバランスにも影響がある。


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