素人をスパイに採用する中国
Japan In-depth / 2019年4月11日 19時35分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #15」
2019年4月8-14日
【まとめ】
・中国諜報機関は「素人」をスパイとして採用している。
・中国の諜報活動は「農耕型諜報」。
・これからも米中間の諜報戦争は続く。
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先週筆者が一番注目したのは3月30日に起きたフロリダのトランプ氏別荘への中国人女性侵入事件だ。米中通商協議と同期間だったため、中国スパイ活動の一環という見方が浮上。逮捕起訴された女性は複数の中国旅券、マルウエアのUSBメモリー、防犯カメラ発見器、巨額の現金など所持していたという。確かにクサイのだが・・。
4月3日、FBIは中国の関与の可能性を視野に捜査を開始し、5日米国務長官は「中国の脅威を国民に伝えるもの」「米国内での工作の対象は政府当局者のみならず幅広い範囲に及んでいる」と述べ、事件が中国の大規模な諜報活動に結びついている可能性を示唆したとも報じられた。中国も遂にやり始めたかと誰もが思うだろう。
だが、これぐらいで驚いてはいけない。中国の諜報活動は我々の想像を遥かに越えるからだ。筆者はこの女性が中国のプロのスパイだとは思わないが、彼女が無罪だとも思わない。何故なら、中国諜報機関は常に中国人の「素人」をリクルートしようと試み、「素人」はいつでもスパイ活動を行う傾向があるからだ。何故そう考えるのか。
10年前筆者は、2001年10月に外国に出張・滞在する政府関係者用に英国防省が作成した防諜マニュアルの内容を具体的に取り上げ、英国諜報機関が中国の諜報活動を如何に分析しているかにつき書いたことがある。内容は今も極めて新鮮なので、今回は同稿の重要部分をご紹介したい。同マニュアルの中国関連核心部分はこうだ。
●中国の諜報活動は極めて広範であり、政治、軍事、商業、科学技術など全ての情報に対して旺盛な食欲を示す。中国は単に技術を盗み出し、これを分析・模倣するだけでは満足せず、今ではより詳細な生産技術や手法に関する情報の入手を試みる。
●中国の諜報活動はロシアのそれとは大きく異なる。中国人は情報(information)と諜報(intelligence)を区別しない。中国の情報に対する食欲は広範かつ無差別であるが、これは、特に科学技術分野において顕著である。
●中国の諜報機関はエージェントを使わずに、友人を作る。勿論、中国には軍事、非軍事を問わず諜報部員が存在するが、彼らは様々な諜報収集機関の命令により働く中国人の一般学生、ビジネスマン、中国内外国企業支店のローカルスタッフなどの裏に隠れている。
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