パフォーマンス理論 その6 400H
Japan In-depth / 2019年5月7日 0時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
・400Hの勝利のカギは、減速の少ないハードリング。
・減速を抑える方法:①鋭角に飛び越える②歩幅調整の反復練習と、風や緊張の影響の察知
・ストライド走法とピッチ走法、前半型と後半型。自分に合うスタイル見つけよ。
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今回は私の本業の400Hについて書いてみたい。実は私はしっかりとしたハードルの指導を受けたことがない。高校3年生の終わりから400Hを専門にしたが、大学の監督に大まかな方針をもらう程度であとは自分でやっていた。だから自分のハードリングが教科書的に正しかったのかどうか今もよくわかっていない。ただハードルはかなり得意な方だったと思う。
じつは400Hの金メダルを取るにはそれほどタイムはいらず、400mで換算すると日本選手権の決勝(日本で8番目)程度でいい。しかし実際にはハードルを飛ぶ時やまたはハードルに足を合わせる局面で少しずつブレーキがかかり、スピードが低下し400mのタイムにプラス2秒以上かかる。400Hの良し悪しはいかにこの減速を減らせるかにかかっている。具体的に言えば1台目までにどれだけのスピードを作り、そしてそれをいかにして低下させないかが勝負を決めている。
400Hで減速をおこす要素は概ね3つに分けられる。ハードルの踏切、ハードル間の歩幅調整、レースにおける歩幅の設定、だ。それぞれ説明してみたい。
まずハードル自体を越える際に大事なのは鋭角に入ることだ。110Hと違い400Hは91cm程度しかないので、170cmぐらいの私の身長でもほとんど重心を引き上げなくてもハードルには当たらない。だから飛ぶというよりほとんどすり抜けるような越え方で十分と言える。
鋭角に入れている選手は少ない。よくある例でいくと、ハードルの前で少しブレーキをし、体だけを前方に倒し込み、同時にリード足を振り上げ、ハードルを越えると同時にリード足を振り下ろす越え方があるが、これは一見きれいに見える。しかし実際にはブレーキをかけた時点で勢いが死んでいる。
ハードル含め全てのトラック競技は自分の胴体をゴールまで早く運ぶ競技であり、前方へ運ばれる勢いが全てだ。空中では何をしても勢いは変えられないので、手足を早く動かすことは無駄だ。同じ角度で入るなら、手足が速く動いているよりも、むしろ緩慢に見えるようなハードリングの方がいい。
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