標的は中国人パキスタンテロ
Japan In-depth / 2019年5月14日 11時7分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #20」
2019年5月13日-5月19日
【まとめ】
・グワーダルで中国人を狙ったテロ発生。
・グワーダル港は中国海軍の拠点の一つになる予定。
・中国がインフラ整備の利益を現地住民へ供与しなかったから。
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先週は米中閣僚級貿易交渉の物別れ、というか事実上の決裂、で大騒ぎだった。何度も同一テーマのコラムを書くのは本意ではないが、今週のJapan Timesと産経新聞のコラムでは再び米中貿易交渉を取り上げた。言いたいことは沢山あるが、詳細はそちらをお読み頂くとして、ここでは米中以外のテーマについて書こう。
先週筆者が一番注目したのはパキスタンで起きたテロ事件だ。テロといっても今回の対象はキリスト教徒でもユダヤ教徒でもない、どうやら標的は中国人らしいのだ。場所は同国南西部バローチスタン州グワーダルの高級ホテル、武装集団による襲撃事件で5人が死亡したという。グワーダルと聞いてピンとくる人は相当の国際通だ。
▲写真 テロ事件が起きたPearl Continental Hotel Gwadr 出典:Pearl Continental Hotel Gwadr
グワーダルといえば、2013年1月30日、パキスタン政府が同港運営権の中国企業への移譲を認可、爾来中国による港湾と関連インフラの整備が進んでいる所だ。いずれはインド洋における中国海軍の拠点の一つになると、インドは勿論、日米豪などの関係国も懸念を深めているいわく付きの港なのである。
問題はそのグワーダルがバローチスタン州にあることだ。同州は17世紀以降カラート藩王国という独立国家だった。その後イギリスの保護領となり、インド独立の際には独立の道も模索されたようだが、最終的にはパキスタンに併合され現在に至っている。要するに、この地には中央政府の言いなりにならない歴史と気質があるのだ。
このバローチスタンの分離独立をめざす武装組織が「バローチ解放軍(BLA)」だ。BLAは今回のテロについて「中国人や、他の外国投資家を標的にした」という犯行声明を出している。BLAは2018年11月にもカラチにある中国総領事館を襲撃し、犯行声明を出していた。この組織、なぜそんなに中国人を毛嫌いするのだろうか。
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