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国名と「北方領土問題」 悲劇の島アイルランド その4

Japan In-depth / 2019年6月29日 7時0分

法的な公用語がどうであろうが、ゲール語の復権に熱意を示した政治家が、さほど大勢はいなかった、というのが事実で、一般国民にせよ、英語というきわめて便利な言語を身につけた以上、今さら「民族の原点」に回帰しろと言われても、とまどうばかり、というのが人間の自然な感情だろう。


草の根レベルではゲール語やケルト文化の復権運動も続いているが、2000年代以降にヨーロッパ統合が進んだ中で、「ポーランド語を母国語とする人の数が、古来のゲール語を話せる人の数をすでに上回っている」


などと言われて久しいのが現実なのである。


19世紀以降盛んになった独立運動の担い手も、政治部門はシン・フェイン(ゲール語で「我ら自身」の意味)党を名乗ったが、非公然軍事部門はIRA(アイリッシュ・リパブリック・アーミー=アイルランド共和軍)を名乗った。この組織については、次稿でもう少し詳しく見る。



▲写真 アイリッシュ・リパブリック・アーミー 出典:Flickr;National Library of Ireland on The Commons


ここでは、大英帝国の植民地主義は是認できないとして、イギリスという呼称さえ意図的に避けてきたが、どうしてエールではなくアイルランドという表記を採用しているのかについて、述べさせていただこう。


理由は単一ではないが、ひとつはもちろん、日本の読者の現役を考えてのことである。昭和の小学生が使った地図帳には「エール共和国」と記載されていたことも事実だが、今の若い読者はエールと聞かされても「どこ?」となるのではあるまいか。


EUでも国連でもアイルランドという表記が採用されているし、英語読みはよろしくないなどと言い出したら、たとえばフィンランドも「スオーミ」としなければならなくなる。エール以上に「どこ?」となるだろう。


昨今なにかと話題のイランも、かの国から来た大学生に聞いたところでは、国内では「ペルシャ」としか呼ばないのだそうだ。さらに言えば、キューバもスペイン語の原音に近づけようと思ったらクーバになるが、植民地主義の残滓だと見なすのなら、英語読みとスペイン語読みとの違いなどあるのか、というように、もはや収拾がつかなくなってしまう。


話を戻して、1937年に制定された共和国憲法では、「アイルランド島全土を領土とする」旨が明記されている。言い換えれば、今でも北アイルランドと呼ばれるアルスター6州は、共和国の立場からすれば、厳然と自国の一部でありながら、歴史のしがらみで英国の実効支配下にあるという「北方領土」なのだ。


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